乙女の髪と子供の悪戯2
 本日最初の授業は、ハッフルパフとスリザリンとの合同で、フィリウス・フリットウィック教諭による、妖精の呪文学である。

 フリットウィック教諭はゴブリンの血を引いているために非常に小柄で、屋敷しもべ妖精よりは高いが、生徒の中で一番小さい紫乃よりも、確実に小さい。本を積み上げた上に立って、やっと机越しに顔が出るくらいだ。
 そんな風に極端に小柄ながらも、身なりはいつもきちんとしていて、ローブの下はたくさんの小さなくるみボタンできっちり閉めたベストと、シックな蝶ネクタイを愛用している。
 また、端を跳ねさせた口ひげを蓄え、研究者っぽい銀縁の丸眼鏡をかけているので、いかにも知的なイギリス紳士、という風情だ。

「最初は、杖の振り方について」

 二年生までの呪文学は、別名『妖精の呪文』ともいう。魔法全般を使うための基礎から始まり、妖精が悪戯をするときに使うくらいの、あまり大掛かりでない、しかし幅広い範囲の、あらゆる用途の呪文を学ぶカリキュラムになっている。

 フリットウィック教諭は、その小柄さ故か、甲高いきぃきぃ声で話すが、その授業は「すべての生徒が試験に合格できるように教えてくれる」と評判で、教え方も分かりやすくて面白い。
 加えて、加点するとまではいかなくとも、良いことをすると小さなお菓子をくれたりなど優しげで朗らか、かつユーモアも解する人柄で、寮監をしているレイブンクロー寮生だけでなく、グリフィンドールやハッフルパフの生徒からも深く慕われている。

 国光はこの授業で魔法の基礎を何とか掴んだらしく、大いに安堵すると同時に、そんな教諭が寮監で良かった、と思い、また「この授業が最初にあれば、変身術でもあそこまで苦労しなかった気がする」とぼやいたほどだ。

「でたらめに杖を振っていては、魔法が上手く対象物にかかりませんからね。まずは、魔力が飛び出す杖の先端で、対象物を上手く捉えるコツを掴みましょう。ゲームだと思って、リラックスして」

 フリットウィック教諭が課したのは、机の上に置いた、三センチくらいの木製のブロックキューブを、杖と連動させて動かす訓練だった。
 ただの木の立方体だが僅かに魔力が込められているらしく、杖の先端からの魔力できちんと中心を捉えれば、弱い磁力がはたらいたかのように、一定の距離でのみ、杖先で動かせる仕組みになっている。
 仕組み自体は幼児用のオモチャのようだが、適度に、かつ常に一定に杖に魔力を通さないと、S極とN極のように弾いてしまったり、杖を早く動かしすぎると、連動が切れてしまったりする。

 最初は、こんなもの、と思っている生徒──特にスリザリン生が多かった──もいたが、単純であるだけに、やり始めるとなかなか“はまる”。
 これはフリットウィックが考案した、子供の魔法入門用の訓練玩具で、最近は就学前に家でこれをやらせる親もいるらしい。

 生徒たちが机の上でブロックを滑らせるのに熱中しているのを満足気に見渡したフリットウィックは、「みなさん余裕のようですので、レベルを上げましょうか」とユーモアたっぷりに、そして少し挑戦的に言うと、四人がけのテーブルに一枚ずつ、大判のボードを配った。
 それは大人が両手で抱えてやっと持てるくらいの大きなボードで、小柄なフリットウィックに運べるものではなかったが、彼は見事に浮遊呪文を使い、杖の先をひょいひょいと動かして、大きなボードをすべての机に配った。
 拍手が起こり、それをにこにこ顔で鎮めてから、フリットウィックは本のタワーの上に座り直した。

 ボードは正方形で、ブロックがひとつ通れる道で構成された迷路が、びっしりと張り巡らされている。四つの角にそれぞれ『START』と開始地点が書いてあり、中央にひとつだけ、『GOAL』というスペースが設けられている。

「ご覧のとおり、迷路です」

 フリットウィックは、杖の先にブロックをふわふわ浮かせながら言った。

「迷路ひとつに四人ずつ、それぞれスタート地点にブロックを置いて、中央のゴールを目指してください。一番早く辿り着いた人の勝ち。このクラスで一番早かった人には、ご褒美の点数をあげましょう」

 途端、全員がスタート地点にブロックを置き、杖を構える。
 勝負と聞いてやる気を出す者、ご褒美の加点を狙う者、単にこのブロック遊びが気に入って迷路を楽しむ者、あるいは独自のテーマを決めてそのクリアを目指す者、様々だが、集中しているのは皆同じだった。

 このように、この教諭は、子供たちの心を乗せ、同時に、授業に集中させるのがとてもうまいのだった。彼の授業は常に実践が伴って騒がしく、誰もがおしゃべりをしているが、誰一人として、授業と関係のないことをしている者はいない。

 弦一郎と紅梅は、ジャスティン・フィンチ=フレッチリーという、くるくるとカールした髪の男子生徒と、ハンナ・アボットという、金髪を三つ編みにした女子生徒とともに、迷路に挑戦することになった。
 ジャスティンはマグル出身だが、その複合姓が示す通りの家柄であるらしい。景吾の生活様式をある程度普通に受け入れているところからして、おそらくかなりのものだと思われる。
 ハンナは魔法族だが本人曰く普通の家柄で、なんとなく、魔法族といえばスリザリン的な貴族然とした風な印象を持っていた弦一郎と紅梅は、二人の印象がちぐはぐで、こういう場合もあるのだな、と固定観念を崩される気持ちだった。
 だが二人共ハッフルパフに組み分けられただけあり、当たりは柔らかいほうだ。ジャスティンは裕福層らしい寛容さがあり、ハンナは非常に良識的な価値観の持ち主で、接していて安心感がある。

 スリザリンの机は皆誰が一番になるかと壮絶なデッドヒートを繰り広げているが、ハッフルパフは、どちらかと言うと、皆で話しながら、コツなどを共有しつつクリアを目指している感じが多い。
 弦一郎も最初は一番になるべく気合を入れたが、紅梅はもちろんのこと、ジャスティンやハンナが「こうしたほうがいいのでは」と助言をしてくれたり、道が被った時は、「先に行っていいよ」と譲ってくれさえするので、なんだか毒気が抜けて、自然、勝負することより、自分の技術を上げる方に集中するようになった。

 勝ちに執着する気持ちは決して失っていないが、周囲の人間のタイプが変わると、こうも気の持ちようが変わるものか、と、弦一郎は、もう何枚目かの目からの鱗が落ちるような心地だった。

 二、三分して、景吾が真っ先にゴールして拍手喝采と点を得たが、弦一郎は、不思議とそれほど悔しいとは思わなかった。
 正式な試合だというのなら話は別だが、無理に何から何まで争わなくても良いのだ、と、自然に考えることが出来た。

 非常に落ち着いた気持ちだったせいか、ミスをすることなく確実にゴールに辿り着いた弦一郎は、魔法族の強みか、四人の中で真っ先にゴールしたハンナと席を取り替えて、もう一度ゲームに挑戦する。
 もう一度ゴールする頃には、弦一郎は、対象物の中心を魔力で捉えることに、もうすっかり慣れていた。

「んー」

 そして紅梅は、小さな声で唸りながら、ブロックに扇子の先を向けていた。
 皆の杖や弦一郎の十手と違い、先が一点に尖っていないので、少し狙いがつけづらいのだ。変身術の授業でそれを重々実感したらしい彼女は、最初から、素早くゴールを目指すことよりも、扇子とブロックの魔力の繋がりを途切れさせずにゴールに辿り着くことを目標にしている。

 魔力が途切れないように集中し、じりじりと、慎重に角を曲がる。
 そして、四人の中では一番最後だが、途切れることなくゴールに辿り着いた紅梅は、ふう、と満足して息をついた。

 ──が、顔を上げた途端、紅梅は、ぎょっと体を強ばらせることになる。

 なぜなら、教室じゅうから強い視線を感じたと思ったら、ハッフルパフだけでなく、スリザリンの生徒らも、一人残らず紅梅をじっと見ていたからだ。

「え、……え、なに?」
「ミ、ミス・ウエスギ、なんだい、それ……」
「え? え?」

 ジャスティンが恐々と指差した先を見ようと、紅梅は自分の後ろを振り返る。
 ──が、特に変わったものは見当たらない。
「違う、そうじゃなくて」とハンナが言うが、紅梅は何がなんだかわからず、疑問符を飛ばして首を傾げる。

「え? なに?」
紅梅、その髪……」
「髪?」

 怪訝な顔の弦一郎に言われ、紅梅は言葉を繰り返し、自分の髪に触れた。
 手櫛で横の髪を掻き上げるようにし、目の前に持ってくるが、やはり特に変わったところは見られない。

「あ、直った」
「びっくりした……」
「何だあれ」
「やっぱり、蛇女帝の孫だから……」
「蛇女か」
「蛇女だよ」

 こそこそとしているが、丸聞こえである。
 何がなんだかわからぬまま蛇女呼ばわりされた紅梅は、ぽかんとして、皆を見回した。
 ちなみに、蛇女と言ったのは、ドラコである。あの一件以来、ドラコは紅梅にちょっかいを出してこないが、忌々しげな目線を送ってくることはある。

「え、何? へ、へびおんな? うちが?」
「自覚がなかったのか」
「どういう意味!?」

 よりにもよって弦一郎に言われ、紅梅はさすがにショックを受けた。
 弦一郎は「あ、いや、そういう意味ではない!」と慌てて首を横に振るが、その時、タイミングがいいのか悪いのか、授業終了のベルが鳴り響く。

「全員ゴールしましたね? ではレポートについて──」

 そして、フリットウィックが宿題について話し始めたので、弦一郎はおろおろしつつ、そして紅梅はがーんとショックを受けつつも、生真面目にその内容をメモに取り始めた。



「髪がうねっていたんだ。蛇のように」

 呪文学の教室を出てから、誤解を解く意思も込めて、弦一郎ははっきりした声で言った。
 ショックを受けていた紅梅を心配して、弦一郎だけでなく、同じ班だったジャスティンとハンナ、それに清純が、廊下の隅に固まっている。

 そして彼らによると、紅梅が迷路に集中しているとき、紅梅の髪が空中に浮かんで広がり、幾つもの束に別れ、不気味にうねうねと動いていたのだ、という。

「確かに、蛇のようだった。あの、西洋の女の魔物のような──」
「メドゥーサ?」
「そう、それだ」
 清純の補足に、弦一郎は頷いた。

「へ、蛇……」
 真相を知ってまた違うショックを受けた紅梅は、おそるおそる、自分の髪を手に取った。先程もそうだったが、自分で見る限りは、おかしいところはなにもないように思う。
 いっそ、皆して自分を“ドッキリ”にはめようとしているのではないか、と思うほどだ。
 だが弦一郎は間違ってもそんなことをしそうにないし、ハッフルパフとスリザリンの生徒が全員一丸となって自分を騙そうとする、ということもさすがにないだろう、と紅梅は思い直す。しかし、そうなれば、また謎は深まるばかりだ。

「心当たりはないのか?」

 心配そうに弦一郎に問われ、紅梅は思わず、びくりと身を強ばらせた。
 ──蛇。正直言えば、心当たりは非常にある。あるが、具体的な原因は思い当たらないし、しかしまさか──と紅梅がぐるぐる考え始めた時、堂々とした声が響いた。

「アーン? ありゃ、蛇じゃねえだろ」

 それは、取り巻きというよりは信奉者、お仕えする侍女のような風情の女生徒を引き連れた景吾だった。腕を組んだ仁王立ちで、ふんぞり返るようにして立っている。
「ブロックの動き……いや、自分の杖、魔力の動きと連動してただけだ。迷路を通る動きなもんで、うねって、蛇みてえに見えたんだろ」
「そうだね。僕は席が近かったからよく見えたけど、髪がそのまま迷路の形になってたよ」
 近くにいた周助が証言する。

 そしてその意見に、ハンナやジャスティン、そして弦一郎や清純らも、「そういえば」と納得した。

「……確かに。しかし、なぜそんなことになったのだ? 昨日も杖を振る授業があったが、別に異常はなかったぞ」
「そこまで知るかよ。ま、今のうちに教授の誰かに相談したほうがいいんじゃねえか」

 ごくまっとう、かつきっぱりとした景吾の意見に、確かに、と本人も周囲も皆同意する。
 ハッフルパフはこのあと薬草学の授業が一コマあるので、そのあとにしよう、と話はまとまり、紅梅も気を取り直し、弦一郎たちと薬草学の教室へ向かった。






『薬草学』の担当は、ポモーナ・スプラウト教諭である。
 スプラウト教諭は至極温和で優しげな女性で、授業はわかりやすく、何より杖を振らない授業なので、紅梅も安心して授業を受けることが出来た。
 そして教室にところ狭しと置いてある植物たちの癒やし効果のある香りと、何事も無く授業が終わったことでいくらか気分が安らいだ紅梅は、弦一郎と清純、そして同じ班になった縁だからと言ってくれたハンナに付き添われ、スプラウト教諭に、先ほどの現象について相談した。

 スプラウト教諭はハッフルパフの寮監、日本の学校のように言うならば担任の先生なので、相談相手としては至極妥当である。

「あら、まあ。最近は珍しいことだけど、おかしいことではありませんよ」

 呪文学の授業で起きた顛末を聞いたスプラウトは、にこにこして言った。
「むしろ、魔女としては非常に古式ゆかしき。結構なことです」
「あの、どういうことどっしゃろか」
 不思議そうな顔で首をひねる当人、そして子供たちに、スプラウトは穏やかに説明を始めた。

「髪の毛には──特に女性の髪の毛には、魔力が強く宿るのですよ」

 髪に魔力や霊力が宿るというのは、世界中、しかも遥か古代から共通して見られる考え方で、また、それは魔法界では、まごうことなき事実だった。
 例えば古代ユダヤでは髪には神秘的な力があるために、特に女性は髪を切ることを許さず、万が一切られたりした髪は、儀式を行ってきちんと処理した。
 また十八、九世紀のヨーロッパでは、髪の毛の房、編んだ髪などを、恋人への愛の証やお守りとして贈ったり、夫に死なれた妻が、自分の髪を切って遺体と一緒に棺へ入れるなど、髪を自分の分身と考えていた様子がわかる。

「日本では、そういう考え方はないかしら?」
「……へぇ、ありおすえ」

 紅梅は、はっきり頷いた。
『髪は女の命』とは現代でも当然のように使う言い回しで、特に平安の世の貴族女性は、いかに長く、つややかな髪を持っているかどうかが美人の基準で、また女性の美の大きさは、権力の強さにも繋がることがあった。
 更に古代では、みごとな黒髪には神秘的な力が宿るとされ、髪の毛を祈祷や呪い、奉納品として使ったという例もたくさん残っているし、女性の髪を男性がお守りとして持ち歩くといったようなこともあれば、海外と同じように、遺髪、という考え方もある。
 そして出家する時は髪を切るか剃るかして、俗世との関わりを断つことを表明する。

 そういったことを紅梅らが説明すると、スプラウトは興味深げに頷き、ハンナもまた、へえ、と頷いた。

「そう──そういうことです。魔法使いの歴史においても、かの魔女狩りの際は、捕まった魔女の多くはその髪を剃られるという、痛ましい行為がありました。それは、髪が魔力の塊であるからに他なりません」
 スプラウトは、厳かに言った。
「ミス・ウエスギの髪には、非常に強い魔力がこもっていますね。そのせいで、使った魔法と連動してしまったのでしょう」
「……でもスプラウト先生、私の髪は、ミス・ウエスギのように、魔法に反応したりしません」
 魔法族、生まれついての魔女であるアンナが少し納得行かない様子で言うが、スプラウトは、「それもそうでしょう」と当然のように返した。

「髪に強い魔力を込めるには、ただ伸ばせばいいというものではないのですよ。毎日かかさずそのための手入れが必要ですし、決まり事がたくさんあります。古代の魔女は、自分の母親や姉からその方法をそれぞれ習っていたといいますが、その方法は、さながら魔法薬の調合や、複雑な儀式にも近かったと言われています。現代のように、巻いたり染めたり、日によって違う整髪料を使ったりするようでは、まるでお話にはなりませんね」
「ええ? じゃあ、ミス・ウエスギは、そういう髪の手入れをしてるの? だからそんなにきれいな髪なのかしら」

 アンナに興味津々で言われ、紅梅は、「へぇ」と首を傾げる。
 しかし、心当たりは十分にあった。美しい日本髪を結うため、と表向きの理由はあるが、決まった洗髪方法を守り、決められた手順で乾かし、数種の櫛を順番に入れ、特別に調合した油をこれまた決められた手順で使って、紅梅は毎日自分の髪を手入れしている。
 もちろんパーマも染色も一度もしたことはないし、市販の整髪料を使ったことも、熱鏝を当てたことすら一度もない。美容院には行かず、姐芸妓らの髪を結いに、屋形御用達の髪結が訪問してくるので、そのついでに整えてもらっている。
 それを告げると、アンナは「綺麗なはずだわ!」と、半ば呆れたように言った。

「本当に、今時珍しいほどきちんとした“魔女”でいらっしゃるわねえ」

 スプラウトは感心しきりだが、今まで自分が魔女の血筋だということもよく知らなかった紅梅は、曖昧に微笑んだ。
 しかし、自分が「きちんとした魔女」ならば、姐たちはきちんとどころか本格的に魔女だし、祖母に至っては言うまでもない。やはり“うち”は魔力云々にかかわらず魔女の巣窟だったのだ、と、紅梅はひそかに確信した。

「ミス・ウエスギ、髪をそのまま下ろしてらっしゃるけど、いつもそうなのかしら?」
「いぃえ、いつもは結うとりますえ」
「まあ、そうでしょうね」
 スプラウトは頷いた。
「魔力の篭ったものは、時に色んなものを惹きつけますからね。それは魔力の篭った髪も同等です。だから昔の女性は必ず髪をきちんと結って、自分の魔力を管理しておりましたし、そうしないのは非常にはしたないことだと言われてきました」
「……へぇ」

 祖母や女将、師匠、姐らから、髪は常にきちんと結え、と口を酸っぱくして言われてきた理由を知って、紅梅は少し苦い顔をする。
 初めからこうして理由を言ってくれれば、予備を用意しておくことも出来るというのに、あの独特の縦社会は、まず上の命令を聞く訓練のほうが先に立っていて、その内容については二の次であることが多い。

「古い魔女は、自分の妹や娘に、こう言い聞かせたといいます。“結わないままの髪をそのまま放り出していると、どうなる?”」

 言われ、少年少女たちは、顔を見合わせた。
 そして短く言葉を交わし合ってから、清純が、やや自信なさげに手を挙げる。スプラウトは、授業よろしく、「はい、ミスター・センゴク」と指名した。

「うーん、……絡まる?」
「正解です」

 スプラウトは、にっこりした。
「髪を手入れせずほうっておくと、絡まります。つまり、もしかしたら、いらぬものを引っ掛けて、絡めてしまうかもしれない、ということを例えているわけですね」
 なるほど、と、全員が頷いた。

「このホグワーツで何か悪いものを引っかけることもないでしょうが、せっかくの見事な髪です。見た目には下ろしているのも素敵ですが、魔女としては、きちんと結ったほうが良いと思いますよ」
「へぇ、スプラウトせんせ、おおきに」
「いいえ、私もいいものを見せていただきました。これからも、ぜひその美しい魔女の髪を保ってくださいね」

 スプラウトはにこにこして、ゆったりと廊下を歩いて行った。