部長・副部長3
 もはや定番となったセリフとともに、太郎が姿を消した後。
 女子二人と、後片付けを手伝いに行った清純以外は、皆、部長、副部長を決める話し合いのため、部室の円卓に集まった。

 部室は談話室ほど寛げる空間という感じではないが、太郎が手配に関わっているせいか、日本の学校の部活動における“部室”のイメージからすると、ずいぶん豪華なものだ。
 マホガニーの円型のテーブルと、それと揃いの模様のある、高めの背もたれの椅子が人数分。簡単ながら、お茶を淹れる給湯設備と、小さめの冷蔵庫もある。──ただし、コンセントがないので、魔法で動いているもののようだが。
 床は石作りのままだが、ところどころに厚めのラグが敷かれていて、具合が悪くなった時にきちんと休めるようにか、壁際には三人くらい座れそうなソファが置いてある。

「話し合う必要なんてねえだろ」

 席に着くなり、まず、景吾が当然と言わんばかりにそう言ってのけた。

「部長、すなわちリーダー、キング。つまり俺様のことだろ、アーン?」
「ふふふ。でかい寝言は寝てから言いなよ、跡部」
 にっこりと微笑んで言った“神の子”、精市から、熱気とも冷気ともつかぬ、しかし有無をいわさぬオーラが醸し出される。

「それぞれ勝手に意見を言う前に、まず立候補を取れ。挙手」
 精市の牽制にうんざり顔の弦一郎が、きびきびと言った。すると、精市、景吾の手が上がる。
「他にはおらんな? では、次。推薦」
「ふむ。俺は手塚を推すね」
 眼鏡のブリッジを押し上げながら、貞治が言った。
「短い間だが、データを取らせてもらった。跡部や幸村も素質としては申し分ないが、いささかワンマンすぎるきらいがある。例えば初心者の比率が多い、多人数の部などであればそのほうがまとまるのかもしれないが、我々は少数精鋭。ならば手塚のように、責任感が強く、またマニュアルを重視するタイプの者がリーダーになったほうがトラブルが起こらず、結果的に全員が納得できる部活動が行えるのでは、と考察する」

 理詰め、しかし説得力のある応援演説である。

「どうだ、手塚? 部長をやってみる気は?」
「……皆に認めてもらえるのなら、全力を尽くすつもりだ」
 国光は、いかにも責任感のある風情で重く頷いた。認めてもらえるのなら、とは言っているが、かなりのやる気が見て取れる。
 魔法という分野においてことごとく躓く結果になっているだけに、得意分野のテニスで大きな立場を持つということに、大きなモチベーションを得たのだろう。

「僕もそう思うね」
 周助が、静かに言った。
「僕たちは実力もなかなか拮抗していると思うけど、それと同時に、言っちゃなんだけど我も強いタイプばかりだ。乾の言うとおり、ワンマンタイプよりは、手塚とか、そうだな、白石でもいいんじゃないかな」
「俺?」

 名を挙げられた蔵ノ介が、自分で自分を指差す。

「うん。なんか、個性が強そうなのまとめるの上手そうかなって」
「褒められてるんかそうやないんか微妙やけど……。ま、任して貰えるんやったら全力を尽くすわ。そやなあ、俺が部長になったら、パーフェクトに、無駄のない部活を心がけるで!」

 推薦してもらってやる気になったのか、蔵ノ介は、「まずは健康管理から徹底してやな……」と、具体的な案まで上げ始めた。

「……蓮二は何も言わんが、いいのか?」
 弦一郎が、蓮二に目を向ける。すると蓮二は、わずかに微笑んだまま頷いた。
「俺も貞治も、根っからデータマンだ。断然サポートのほうが向いている自覚がある、というか、そのほうが本領を発揮できるだろう。やるとしても副部長だな」
「なるほど」
 これには弦一郎だけでなく、全員が納得し、頷いた。
「そういう弦一郎こそ、先程から話し合いを自然に仕切っているではないか。やる気はないのか?」
「む……」
「真田が部長だなんて、冗談じゃないよ」

 精市が、むっつりと、低い声で言った。

「こいつが部長になったら、朝練が四時からになりかねない。しかも規律がどうのこうのって言って、新撰組並みの決まりとか作りそう。士道に背くこと切腹、みたいな」
「するか! そんな事!」
 弦一郎が怒声を上げるが、そのさまがありありと想像出来すぎてしまい、誰も否定しなかった。そして精市も弦一郎の怒声を無視し、続ける。
「ここが軍隊なら、真田が適任だろうね。あと、ここが日本の学校のテニス部なら、手塚はかなり頼れる部長だと思うよ。俺も文句ない。でもここは、イギリスの! 魔法界の! テニス部だ!」

 精市は立ち上がり、朗々と言った。

「そして、俺達は留学生だ。殆ど日本を知らない人ばかりの、しかも魔法族ばかりの土地で、日本人代表としての姿をホグワーツの皆に見せることになるわけだよ? 確かに部内の和も大事だけど、そういう面で、見栄えがする、あとナメられない人材をトップに置くべきだと思う」
「それについては全面的に同意するぜ」

 景吾も、そう言って立ち上がった。

「部長は、テニス部の、いや日本人留学生全員の代表になる『顔』だ。部内の和を重視するなら、それこそ副部長あたりの仕事だろ。それに、マネージャー二人はそういう面で頼りになりそうだしな、何とでもなるだろ」
 これにも、特に反対意見は出なかった。
「それに、こっちでは、マグル、魔法族って垣根もでかい。家柄と人柄、実力はもちろん別だが、それは個人レベルでの話だ。大衆に対するとなると、なんだかんだでやっぱり“箔”が大きく物を言うんだよ。まずはネームバリューで黙らせて、確かな実力で納得させるってのは基本だぜ」
 日本でこの話を聞いていたら、反感もあっただろう。
 しかしこちらに来てからというもの、純血主義に基づく、差別、区別、また家柄というものに対する魔法族らの意識の強さをこれでもかと見ることになっている面々は、景吾のその意見には、まさにぐぅの音も出なかった。

「……ふむ、なるほど」

 数秒沈黙が落ちた後、蓮二が切り出した。
 なぜなら、今まで話し合いを仕切っていた弦一郎が、むっつりと黙ってしまったからである。特に立候補したかったわけではないが、部長になることを全面否定され、機嫌を損ねたのだろう。ぶすくれた様子だ。
 まあ、おが戻ってくればすぐに機嫌は直るだろう、と判断した蓮二は、司会を買って出ることにした。

「跡部と精市の言うことも、一理ある。まだ二日も過ごしていないが、今のところ、このメンバーで重大な諍いが起きそうな気配は感じられん。──跡部の言うとおり、マネージャー二人の存在も大きい。もし何かあっても、あの二人がいるだけで、少なくとも乱暴な手段には出にくくなるしな」
「そうだね。女の子の前で揉めるのもみっともないしね」
「まあ、今まさに揉めとるけどな……」
 周助の同意に、ははは、と乾いた笑みを浮かべつつ、蔵ノ介が突っ込む。それに一拍置いてから、蓮二は続けた。

「となれば、部長の条件としては……」

 (1)リーダーシップ、責任感があること。
 (2)魔法族として、舐められにくい家柄出身であること。
 (3)日本の代表として、見栄えのするパフォーマンスをこなすことが出来、いかなる時も毅然とした態度を取れること。

 部室内の連絡用ホワイトボードを使用し、蓮二はまとめた。
 更に、貞治が誰に言われずともそれをノートに書き留め、書記の役割をする。サポートが適役という彼らの自己申告は、確かなようだった。

「ふむ。この条件にすべて当てはまるとなると、確かに、精市、跡部、白石といったところか」
「そうだね。一番の条件に関しては、誰がなっても大丈夫だと思うけど」
 周助が頷く。
「二番に関しては、まあ、やっぱり最初に色眼鏡で見られるのは面倒というか、ハンデではあるね。必須ではないかもしれないけど。となると、一番重要なのは三番かなあ」
「う〜ん、確かに」
 ノートに書き連ねた、彼にしかわからない“データ”を見ながら、貞治が唸った。

「難しいところだな。三人とも、その点においては、タイプ違いの資質の持ち主だ。有無を言わせぬカリスマ性なら幸村、人を惹きつける華やかさなら跡部。好き嫌いの差異をあまり作らない感じの良さ、当たりの柔らかさなら白石、といったところか」

 その分析は本人たちにも納得の行くもので、全員が頷く。
 そしてまとまりかけている意見に、一度は推薦された国光は残念ではあったが、納得もしていた。
 国光はしっかり仕事をすることでマグル出身であるハンデを乗り越える自信はあるが、大勢に対する見栄えのするパフォーマンスなどということには、まったくもって自信がない。その点なら、まだ真田のほうが適格だ、とはっきり自己判断できるほどに。
 ──実際は、国光の真面目すぎるほどに真面目で、テニスに対してストイックな姿勢は人がついてくるにあまりあるものであり、国光が部長になるのにネックなのは、どちらかと言うとマグル出身であるということだけなのだが。

「おおう、難航してそうだね?」

 ドアを開けて、清純が入ってきた。片付けが終わったらしい。
 その後に、干していたローブを抱えた紅梅紫乃が続く。
「ニンニクの臭い、何とか消えたよ!」
 にこにこしながら紫乃が言い、皆にローブを手渡す。
 確かに、全員のローブは消臭剤の僅かな芳香を残すばかりで、ニンニク臭は残っていなかった。これなら、しもべ妖精に洗濯を頼まなくてもよさそうだ。

「助かった。どうもありがとう、二人共」
「私は何もしてないよ。ちゃんだよ」
 礼を言った精市に、紫乃はきりっとした顔でそう返す。精市はにこにこしながら、「そうだね。ちゃん、ありがとう」と言いつつ、ぐりぐりと紫乃の頭を撫でた。

「へぇへぇ、めっそもない。そろそろごはんやし、お着替えやす」

 紅梅がそう言った途端、本当に夕食の時間の予冷のベルが響いたので、全員慌てて、自分のロッカーに飛びついた。



 相変わらず重めの夕食の後は、消灯の00:00まで自由時間である。
 同じ寮ならば暖かく、座り心地抜群のソファがあり、お茶を淹れる設備も完備された談話室が使えるのだが、四つの寮からそれぞれ集合ということで、全員、風呂に入った後、またテニス部の部室に集まることになった。

 そして夕食後に寮に戻ると、ハッフルパフとレイブンクローの一年生宛に、『変身術』の課題のための布と最低限の裁縫道具が届けられていた。どうやら、倉庫に入っていた古いカーテンを潰したらしい。アーガス・フィルチ、という管理人──用務員のような人物らしい──が協力してくださいました、という手紙がついている。
 国光は寝間着の上にローブを羽織ると、同じような格好の蓮二、貞治と連れ立ち、それらの道具も持って部室に向かった。

 部室に入ると、既にハッフルパフ三人組が、国光らと同じく寝間着にローブという姿で座っており、やはり『変身術』の課題──つまり雑巾作りにとりかかっていた。
 おそらく浴衣にローブを羽織った紅梅は、非常に手慣れた手つきでさくさくと雑巾を縫いつつ、四苦八苦、というのでも足りないような様子の弦一郎を、何かと横から助けている。
 ──机の上には救急箱が置いてあり、弦一郎の中指の先に絆創膏が貼ってあるところからして、さっそくやらかしたようだ。しかし国光も他人事ではないので、油断せずに行こう、と気を引き締める。

 弦一郎の隣にいる清純は、「ボタン付けぐらいなら出来る」という申告通り、紅梅ほどではないにしろ、それなりの手つきだ。弦一郎を挟んで紅梅の反対側に座った彼もまた、時々弦一郎に助言を施していた。

 裁縫経験については弦一郎と同レベルの国光は、ベテランの紅梅と、教えて貰う予定の蓮二に挟まれる位置に座った。
 まずは糸を通すところから──だが、国光は近視なので、眼鏡を外し、未だかつてない細かい作業にとりかかった。

 玉結び、基本の運針を習った後は、黙々と作業が続く。
 しかし紅梅はすぐに「うちはいつでも終わるし」と余裕、かつ納得の発言をすると、弦一郎や国光に教えることと、お茶を淹れたりすることに従事し始めた。
 紅梅の私物だという煎茶は、しばらく飲めないと思っていただけに、ほっと落ち着く。机の中央には、これもまた紅梅の提供である煎餅や花の形の蕎麦ぼうろ、また屋敷しもべ妖精が用意してくれたというクッキーなどが入った器が置かれていた。

 作業に熱中するあまり、あまり口数の多くない空気の中。紅梅がお茶のおかわりを淹れに小さな給湯スペースへ立ったのをきっかけに、ふと、国光は、気にかかっていたことを尋ねた。

「真田」
「うぉっ、……何だ」

 集中していたところに話しかけられたせいで、危うくまた針を指に刺しそうになった弦一郎に、国光は「すまん」と謝罪してから、続けた。

「その、……幸村のこと、なのだが」
「幸村? 幸村がどうした。何かされたか」
「いや何もされていないが」
 なぜ速攻でそういう発言が出るのだろう、と国光は疑問に思ったが、聞きたいことはそれではない。
「不躾なことを聞くが、彼の人となりは、こう、……乱暴だったり、といったことはないだろうか」
 その質問に、弦一郎はきょとんとしつつ、「乱暴?」と首を傾げる。

「喧嘩をするかとか、そういう意味か?」
「ああ、まあ……そういう感じだ」
「するぞ」
 端的な答えに国光がびしりと固まったが、それに気づかない弦一郎は、何でもないように続ける。
「あれとは、小学校に上がって、同じテニスクラブに入って以来の付き合いでな。やりあう度に骨を折ったりヒビを入れたりするもので、拳は使わんようにと親と約束させられているのだが、まあ、……守られたことはあまりないな」
「君ら、そんなにバイオレンスな関係だったの」
 清純が手を止め、明らかに引いた顔をして言った。
 するとこちらは運針を止めないまま、蓮二が「ふむ」と相槌を打つ。

「去年は救急車を呼んだと聞いたが?」
 蓮二のそのセリフに、弦一郎以外は総じてぎょっとして目を見開く。しかし弦一郎は、「うむ」とあっさり頷いた。
「あの時は、お互い転げまわったせいで擦り傷がひどくてな。そのうえ両方ともかなり鼻血を出していて血まみれだったせいで、周りの誰かが119要請をしてしまったらしい。実際のケガは、それまでの喧嘩と比べればかなり軽い方だったのだが」
「……軽い方」
 ごくり、と、誰かが唾を飲み込む。

「うむ、一番ひどかったのは小二の時か。俺は四針縫って、幸村は鼻の骨を折った」
「えええええええええ」

 けろりと答えた弦一郎に、清純がどん引きの声を上げる。しかし声に出さないだけで、国光、またひそかに貞治も同じくどん引きである。
 弦一郎はこめかみより少し上のところの髪を持ち上げ、「ほら」と言って、蓮二に見せた。そこには、小さくなってはいるが、確かに、縫い目のような傷跡がある。
 曰く、精市に髪を掴まれて引きずられ、なまじ毛根が強靭だったせいか、皮膚ごと髪を持って行かれ、裂けたようになったたらしい。想像したのか、清純が「ヒー!」と声を上げた。
 しかしその弦一郎も、あの、美の粋を集めたような精市の顔の、まさに鼻っ柱を叩き折っているわけなので、度合いとしてはどんぐりの背比べだろう。

「……お前たちは、いつも、そうなのか?」
 国光が、おそるおそる尋ねる。
「いや? まあ、血を見るようなのは、半年に一、二回ぐらいではないか?」
「充分だよ!」
 清純が突っ込む。
「うおおおお、怖ァー! なに、ヤンキー漫画に神奈川が舞台なのが多いと思ったら、ホントにそうなの!? 怖い! 神奈川怖い! 不良の国!」
「誰が不良だ」
 弦一郎が、むっとして口を尖らせる。
 確かに、彼は不良ではない。むしろ不良を懲らしめる側である。──彼ら以上の腕力で。

「しかし、手塚。なぜそんなことを聞く? 幸村に喧嘩で勝ちたいなら、協力することもやぶさかではないが」
「いや別にそういうことではない」
 さらりと物騒な事を言ってくる弦一郎に、国光はぶんぶんと首を横に振った。

「手塚が気にしているのは、藤宮の事だろう?」

 蓮二が、穏やかに言った。
「組分けの時、藤宮が幸村に友達になってくれと言ったのは、皆が知っていることだ。幸村もそれを快く了承し、今日も何かと気にかけている。幼なじみとして、──しかも藤宮はどうも男子に苦手意識があるようだから、心配しているのだろう」
 寸分違わず言い当てられ、国光が目を見開く。
 しかし本当にそのとおりだったので、「ああ……」と、今度こそ、心配しているのがありありと分かる声色で返事をした。

 最初は、紫乃の方から友人になってくれと言ったということ、そして一見かなり穏やかで優しげな精市の様子から、むしろ紫乃に頼れる友人ができて喜ばしい、と国光も思っていた。
 しかし今日、ニンニク騒ぎで、原因であるクィレル教諭に対して「どうしてくれよう」などと不穏な発言をしたり、部長を決める時の攻撃的なまでの発言から、国光はだんだん不安になってきたのである。

「ああ、なんだ、そういう事か」
 弦一郎も、納得した、というふうに頷く。
「つまり、幸村が藤宮に暴力を振るったり、喧嘩に巻き込んだりしないかということか」
「……ああ」
「ないな。それはない」
 最初に、精市が喧嘩をするということをきっぱり断じたのと同じ様子で、弦一郎は端的に言った。

「幸村は確かに傍若無人でどうしようもない奴だが、藤宮のような者に危害が加わるような真似は、絶対にしないだろう」

 守ることはしてもな、と、弦一郎は、褒めているのかけなしているのかわからない事を言った。

「そうだな。俺の知るかぎりでも、精市が実力行使に出たのは弦一郎との喧嘩か、絡んできた不良に対しての正当防衛のような場合のみだ。しかも、絶対に無関係の者を巻き込んだりはしていない。そもそも、精市は基本的にはかなり穏やかな性質だぞ。テニス以外の趣味も、絵画やガーデニング。ボランティア活動等にもなかなか熱心だ」
 国光を安心させるかのような情報を、これまた穏やかな声色で、蓮二が補足した。
「ただ、自分に敵対する者と、弦一郎に対しては、果てしなく容赦がないが」
「あー、なるほどねー」
 清純が、納得したように頷いて、続けた。

「俺もその点は大丈夫だと思うよ。だってほら、幸村君や真田君が猛獣だとすると、紫乃ちゃんはほら、子猫とか、小鳥とか、ハムスターとか、そんな感じじゃん」

 猛獣と言われたことに弦一郎がむっとした顔をしたが、その例えがあまりにも想像しやすかったため、全員が思わず「ああー……」と、小さく声を出して頷いた。

「猛獣っていうか、いっそ龍と虎? ゴジラ対キングギドラ? ……まあともかく、紫乃ちゃんとは住んでる世界もレベルも違いすぎるもん。手塚くんが心配するようなことはなにもないと思うなー。むしろ龍がハムスターを守ってくれる感じじゃない?」
「ふむ。いささか大げさな例えだが、間違ってはいないと思うぞ」
 蓮二が頷き、更に微笑む。

「それに、幸村に友達になってくれと申し出たのは藤宮だ。心配する気持ちもわからなくはないが、ここは藤宮の人を見る目を信用してはどうだ?」

 その言葉に、国光ははっとする。
 そしてややしてから、「……そうだな」と数度頷き、納得したような表情で顔を上げた。どうやら、気持ちが落ち着いたようだ。

「まあ、あれと友人になるということに不安を覚える気持ちはよくわかるがな」

 弦一郎がまたさらりと失礼極まりないことを言い、清純が、「やっぱり、仲が悪いのかいいのかよくわかんないなあ」と、呆れたように小さく呟いた。
部長・副部長1/3//終