心に私なき時は疑うことなし
(三)
帰宅してから、弦一郎はしばらく部屋で座禅を組んでいたが、やがて無造作にごろんと横になった。弦一郎を知る者が見れば、ひどくぞんざいでだらしなく、彼らしくない動きである。
だが誰も見る者のないひとりきりの空間で、弦一郎は畳の上に寝転がったまま、文机の上においたお守りを見た。
角がほつれ、薄汚れた、黒い小さなお守り。
こうして会わずに帰ってきてしまったことで、役目を終えたこれを毎年彼女に渡し、新しいものを受け取る習慣を、今年は果たせなかったことになる。
だがしかし、と弦一郎はお守りから目を逸らし、顔を伏せた。
(……紅梅が用意しているとも限らん)
あれほど忙しいのなら、今年はお守りを用意できなくてもおかしくない。ならばこうして会わずに帰ってきてしまったほうが、お互い気まずくなくてよかったのではないか。弦一郎はそんなことを考えながら、畳の上でごろごろとした。
胸の内が、もやもやとする。
紅梅に会いに行けという蓮二、そして紅梅のことを話す景吾を思い出すと、弦一郎は処理しきれない濁った靄が頭の中に充満する気がして、顔を顰めた。
──舞台は、見事だった。
紅梅は紅椿の真横に並んで、見事に舞い切った。
さすがに本家の紅椿がすぐ横にいると、紅梅の動きが未だ人間臭いままだということが弦一郎にもわかったが、しかしだからこそ、彼女が紅椿に近づきつつあることもよくわかった。
へたくそと言われていた少女から、次代の紅椿へ。清姫・花子から、大蛇の化身へ。人から、人ならざる者へ。地を這いつくばり泥にまみれながら、天衣無縫へと手を伸ばす姿を、今日、弦一郎はこの目で見た。
その姿は、日舞などよくわからぬと感じ続けてきた弦一郎ですら素直に感嘆するほど美しく、蛹から蝶が羽化しようとするような感動に満ちていた。
そしてその舞台のあと、弦一郎は、彼女の素顔をすっかり思い出せなくなってしまっていたのだった。
脳裏に焼き付いているのは、この世のものではないほど美しい、白塗りの化粧の顔。豪華な衣装、結い上げ、飾られた日本髪。人形師や絵師たちが望み、その手で創り出そうと生涯を賭ける理想の姿。
彼女と、テニスをした。汗まみれになって笑いあい、一緒に走り回ったはずだ。だがその記憶は今、舞台の上の強い輝きに押し負けて、弦一郎の中で遠く色あせ、ひどくぼんやりしたものになっている。
いまこうして寝転がっている畳の上で、二人でじゃれあって転げまわった日が確かにあったはずなのに、記憶はまるで夢の中の出来事であったかのように浮ついて、輪郭がはっきりしない。
思わず、手を見る。彼女と組んだはずの手。彼女の手は、どんな手だっただろうか。自分よりどれくらい小さく、どれくらい暖かかっただろうか。
弦一郎は、もう、思い出せなかった。
その後、毎年、公演日に会ったあとすぐ来る紅梅からの手紙が来なかったのは、弦一郎を安心させ、そしてどこか不安にさせた。
さすがに、我ながら勝手なものだ、とは思う。しかし、それが紛れも無い本心だった。
そのすぐ後、弦一郎は全国大会に向けた短期合宿のため、紅梅からの手紙が来ぬまま、箱根に出かけた。
メンバーはレギュラーのみ、学校やテニス部が行うものではなく、彼らが自主的に計画して行ったものである。行き先も、蓮二の叔父が経営するペンションである。作家などをしつつこうしたペンションやキャンプ場などの経営で糧を得ているという叔父と蓮二は懇意であるようで、快く、しかも格安で予約を開けておいてくれた。
おかげで、テニスコートのついたペンションで、彼らは充実した練習を行うことが出来た。
ただ、レギュラーになれなかったことでまず荒れ、更にこの合宿でも置いて行かれた赤也は、大層落ち込んだ様子だった。帰ったら全員で扱いてやらなくちゃね、と言う精市に、他の誰もが同情するが、概ね同意であった。
レギュラーは今年全員、二年生。来年は三年生になるのだから、次のことを今から考えておかねばならない。
黄金期と呼ばれる精市や弦一郎たちの世代が注目されているので、このことは未だ表立って問題視はされていない。しかし実のところ、これは立会大付属テニス部において、今最大の懸念事項であった。
なぜなら、赤也が今の一年生で飛び抜けた実力を持っているということはつまり、他の一年生は軒並みどんぐりの背比べということである。今のうちに赤也を自分たちのレベルまで引き上げ、他の一年生の実力も底上げしておかねばならない。
でなくば、最近“王者”とすっかり呼ばれ、三連覇を目指す立海の栄光は守れない。
(王者、か)
──俺は榊監督やあいつに恥じないように、王になる。お前はどうだ?
──お前は、天衣無縫の隣に立てるだけの男になる気があるのか?
景吾の言葉を思い出す。
しかし弦一郎はその答えどころか、投げかけられた言葉の真意もよくわからぬまま、何かを振り切るように、ただ、ラケットを振った。
そして、全国大会。今年の会場は、大阪である。
新幹線で、新横浜から新大阪へ二時間と少し。
意外にさほど遠くも感じられないその地は、神奈川より暑い気がした。
知らぬ土地、初めて使うコート、やや異なる気温、習慣、西の言葉。しかし立海大付属はそんなアウェーな環境をものともせず、予選から快進撃を続けた。
全国大会は参加校が多いだけに日程も長く、全部で五日間を使って行われる。
順調に勝ち進む立海大付属はもちろん全日程を戦うことになるが、休息は必要である。ちょうど日程の真ん中辺りになる準決勝戦前、丸一日の休みが与えられ、決戦に挑む。
もちろん遊ぶなどということはなく、しっかりと練習と休養に充てられた──が、半日の練習の後、休養という名のもとに、ほんの数時間だけ遊びに出ることが許され、面々は大阪の町に繰り出してゆく。
しかし弦一郎はそんな気にもなれず、練習を禁じられたがゆえに渋々、ホテルで与えられた部屋にて、座禅を組んでいた。
準決勝の相手は、大阪をホームとする、関西最大の強豪校、四天宝寺中学である。手塚国光ほどの選手が揃っている感はないが、さすがに全国レベル。たるんだ気持ちでいては勝てない相手だ。
余計なことを考えないよう、ただ勝つことを考えようとした。その時だった。
「弦一郎」
どこか品のいいノックとともに、聞き慣れた声がかけられた。
「蓮二? どうした。出かけなかったのか」
「ああ、まあ。俺は京都に出るついでに、大阪には何度か来ているしな。観光なんぞは今更だ。柳生と精市とジャッカルがいるから、放っておいても大丈夫だろう」
「……そうか」
京都、という単語が、少しだけ琴線に引っかかる。しかし弦一郎はそれを無視して、「それよりこちらは風邪が流行っているようだから、それを貰ってこないかが心配だ」と言う蓮二の言葉に、適当に相槌を打った。
「それで、わざわざどうした。話し相手が欲しかったのか?」
「いや」
蓮二は一度黙り、珍しくも逡巡するようにしてから、言った。
「余計な世話だろうかとは思ったが、まあ、一度くらいはいいだろう」
「何の話だ」
「京都に行ってこないか、弦一郎」
弦一郎は一瞬驚いた顔をしたあと、眉を顰めた。しかしそれも予想のうちだと言わんばかりに、蓮二は続ける。
「姉さん経由で、お梅と連絡を取った。今日は早目の時間から座敷があるので、それより前に屋形を出ておけば、少し時間があるそうだ。といっても店で会ったりするまではできそうにないが」
「……蓮二」
「今から出て、電車を乗り継いで、順調に行っても会えるのはせいぜい十五分か二十分くらいだろうが」
「蓮二」
いつになく強い声で、しかも苛々と怒りの滲んだ声で読んだ弦一郎に、蓮二はとりあえず黙った。
「……何を考えている? よりにもよってこんな時に」
「こんな時だからだ」
即答した蓮二は薄く目を開け、弦一郎の部屋にある、ラケットバッグを見た。いや、正しくは、そこにぶら下がっている、端のほつれた小さな黒いお守りを見た。
「お前があのお守りを貰ったのは、去年の八月二十日。ちょうど今日から一年前だ。お守りの効力は丸一年と言われ、それ以降は返納して新しいものと交換しないと縁起が悪いとされる」
「くだらん。験担ぎごときで、大阪と京都を往復しろと?」
「しっかりあのお守りを持ってきているくせに、よく言う」
そう言われ、弦一郎は、初めてぐっと言葉に詰まった。
確かに、一度ラケットバッグから取り外したあのお守りを、弦一郎は再び取り付け、こうして肌身離さず持ち歩いている。いつもあったものがないと調子が狂うだけだ、と言い訳をするには、お守りはほんとうに小さく、ささやかだった。
それは黒いバッグに溶け込んで、パッと見てもわからないほどさりげない。時折、金色の刺繍がチラリと光るだけだ。だからこそこの数年間、ずっと弦一郎の傍にあったとも言えるが。
「まあ、験担ぎは単に口実だが」
「おい」
けろりと言い放った蓮二に、弦一郎は怪訝な顔をする。
「お梅に会いに行け、弦一郎」
「……本当に余計な世話だ。いいかげんにしろ」
「いい加減にするのはお前だ、弦一郎」
「な」
蓮二と知り合い、友人になってから、弦一郎は、彼にこうも強く窘められたことはない。常に彼は弦一郎のやることを基本的に肯定し、アドバイスさえしてくれた。──かつての、彼女のように。
だからこそ弦一郎は、今、蓮二からこのような態度で窘められたのが、自分でも驚くほどショックだった。
「今のお前は酷く独り善がりだぞ、わかっているのか」
「何を……」
「あれだけお梅に世話になっていて、──いや」
蓮二は、淡々と、しかし強い調子で言った。
「あれだけ彼女に想われていて、その態度は何だ」
「想われて……?」
「お前ほど想われ、甘やかされている男はいないよ、弦一郎」
「甘やかされているとは何だ!」
弦一郎は今度こそかっとして、声を荒らげた。
幼い頃から厳しく育てられ、他人にも、そして何よりも自分に厳しくあることを信条としてきた弦一郎にとって、それは何よりの侮辱だったからだ。
「甘やかされているとも。ろくに手紙の返事を出さずとも文句の一つも言われず、大会を勝つごとにマメに祝いの言葉を貰っても、当然のような顔をして感謝もしない。忙しかろうと言いつつ彼女を気遣うこともせず、むしろ無用の疑念を抱いた挙句に悋気を起こして拗ね、しまいには年に一度しか会えない機会をすっぽかした」
しかし、すらすらと流れるように言ってのけた蓮二に、弦一郎は絶句して、怒りを不発にさせたまま、魚のように口をぱくぱくとさせた。
なぜなら、蓮二の言ったことが事実でしかなかったからである。今まで目を背け、見ないようにしてきた事実を目の前にずらりと並べ立てられて、弦一郎はたじたじになった。
「不義理に過ぎると思わんか」
ぐぅの音も出ない、とはまさにこのこと。弦一郎はばつの悪い顔で俯き、そしてむっつりと黙りこくった。
否定はしない、しかし肯定もせず、そしてそこから動こうともしない弦一郎に、蓮二は大きくため息をついた。
「確かにお梅は忙しい。だが、その中でお前のために多くの時間を割いているのだ。それを何だ。跡部がどうの、大勢に囲まれているからどうのと。彼女が想っているのは常にお前だけだというのに」
「何を、根拠の無いことをべらべらと……」
「根拠が無い? この柳蓮二が言うことに、根拠が無いと言うか、弦一郎」
蓮二が今度こそ目を見開いたので、よくわからぬが、データマンの逆鱗に触れたらしいことは理解し、弦一郎はのけぞった。
「少し考えればわかることだろう、馬鹿め」
「ば、ばか」
「馬鹿だとも。大馬鹿者だ。あれほど忙しい彼女が、遠い神奈川の学校の試合予定を逐一把握し、勝った負けたを常にチェックし、寝る間を惜しんで手紙を書いていることぐらい、お前もわかっているだろう」
「ぐ、む……」
「あんまり熱心なので、俺も彼女にその辺りのデータを提供している。その度に酷く喜んでくれるよ。──特に、お前が勝ったという時は」
弦一郎はとうとう呻くこともせず、唇を噛んで黙りこくってしまった。
「──あの日以来、お梅から手紙が来ていないだろう」
「なぜ、それを」
「本人から聞いた。あの日お前が会いに来なかったので、ひどく落ち込んでいた。何か気を悪くしただろうかと。舞台が気に入らなかったのかと、手紙を出しすぎてうざったがられてしまったのかと」
弦一郎は、耳を塞ぎたい衝動に駆られた。胸に充満していた処理しきれない靄が、心臓を締め付ける。実際、息苦しささえ感じた。見ないようにしていた罪悪感が、弦一郎を苛む。
「嫌われたのだろうか、と。少し、泣いていた」
がん、と、頭を殴られたような衝撃が、弦一郎に走った。
「これ以上嫌われたくないと、それに何を書いていいかわからないので手紙が出せぬと言っていた。だから手紙が来ない。わかったか? 間違ってもお前のことがどうでもいいからではない。だいたい、約束をすっぽかしたのだから、謝罪なり言い訳なり、手紙を出さなければならないのはお前のほうだろう」
「う……」
とどめを刺すように図星を指され、弦一郎は呻いた。
「な……」
「何だ」
「泣いて、いた、のか」
「泣き喚いたわけではないが、ぽろりとなにかこぼれたのを見た」
ずきん、と、弦一郎の胸に痛みが走る。
紅梅が泣くのを見たのは、祖母の佐和子の葬儀の時が唯一だ。あの時はまだ幼かったのもあって、紅梅はわんわん泣きわめき、弦一郎を罵った。
だから弦一郎は、紅梅がぽろりと涙を零して静かに泣く様など、見たことはない。想像しようとしたが、顔もようよう思い出せない弦一郎では、その表情を伺うことは出来なかった。しかし、俯いて影になり、見えない顔から、一粒の涙が転がり出て消えるのを想像しただけで、弦一郎はいたたまれない気持ちになる。
「お梅なら何をしても許してくれる、と独り善がりに走った挙句がこのざまだ。これを甘ったれていると言わずしてなんと言うのだ、弦一郎」
断罪されている、ということぐらい、弦一郎にもわかった。
そしてそれがしかるべきことであり、甘んじて受けるべきだということも。
「まだ気持ちが決まらぬなら、とっておきのデータを提供してやろう」
「な、なん、何だ」
すっかり動揺しきっている弦一郎に、データマン・柳蓮二は、容赦なく畳み掛ける。
蓮二は、手にいつも持っているノートの表紙を開くと、そこに挟まっていた、ノートからはみ出すくらいの大判の封筒を取り出した。そして折り曲げられた封を開け、中から数枚の何かを取り出す。
「見ろ。これ以上ない根拠。“データ”だ」
──それは、写真だった。
B5程度に大きく引き伸ばされた枠の中に写っているのは、ひとりの舞妓。──紅梅だ。白塗り化粧の顔ばかりを覚えてしまった弦一郎だからこそ、すぐにわかった。
だらりの帯は半分くらいの長さしかなく、“半だら”と呼ばれる、舞妓の中でも新人、見習いの身分を示している。
それだけでも珍しくて特徴的だが、しかし、きらびやかな髪飾りや衣装、半だらの帯よりも目を引くのは、その足元。
「……なぜ、裸足なのだ」
紅梅は、裸足だった。
歩いているのは、石畳の道。星が光る空もちらりと遠く映っており、どう見ても屋外、しかも夜である。しかし紅梅は高いおこぼも足袋も脱ぎ、裸足でそこを歩いているのだった。
「百度参りだ」
「は?」
「百度参りは、裸足でやるのが正式だ。いつもは早朝に起きて北野天満宮に参拝するそうだが、その日はたまたま起きられず、座敷に出たあと、その姿のまま参拝したそうだ。興味をもった座敷の客──三縁龍之介という写真家だが、彼がついていって、その写真を撮った。撮影のためと言って、既に閉門している天満宮を開けてもらったのもあってな」
蓮二の説明を聞きつつも、弦一郎は、写真に釘付けになっている。
「なぜ百度参りなどしているかは、言わずもがなだがあえて言ってやろう。お前にやるお守りを得るためだ」
弦一郎は、思わず振り返り、自分のラケットバッグにぶら下がっているお守りを見た。角がほつれ、薄汚れ、そしてこの丸一年、弦一郎のテニスに付き合ってきた、小さな守袋。
「そしてお梅は一度の参拝で百度願う方式ではなく、昔ながらの、正式な、一度ずつ百日間行う百度参りをやっている。つまり三百六十五日のうち百日間、お前のために参拝したのだ。これ以上具体的で、確固たる“データ”があるか?」
弦一郎の、写真を持つ手が震える。
上から下まで完璧に姿を“作った”彼女は、相変わらず、人に見えぬほど美しい。
華やかだががちがちに着付けられた重い衣装、鬢付け油で固めた、花かんざしの日本髪。素肌でさえ白く塗り込められた舞妓姿は、完璧に、全くもって露出がない。
しかし、その足元だけは、裸足。
着物の褄を左手で持つことで、芸は売っても身は売らぬ、ということを示す作法をとりながらも、その裾からのぞく小さな白い足は、足袋を脱いだ、無防備極まる裸の足。
伝統として、人ではないような美しさ、高嶺の花、といった風な雰囲気を作らねばならない彼女が、その一分の隙もない仕掛けをみずから解いて裸足になり、足が汚れるのも構わず、冷たい石畳の上を歩いて祈る。
その様は、単に珍しく美しいと同時に、どこか神聖で、半だらの舞妓姿であるだけに可憐で健気で、何より、ごくりと唾を飲み込むような──色気があった。
そして彼女にその姿をとらせた原因である弦一郎は、もう、やられた、としか言い様がない気持ちだった。
「珍しいし、何より単純に良い写真なので、後援会の特典や、もしくは写真集に収録しようと跡部も三縁氏も強く言ったが、お梅はどうしても了承しなかった。これはお前のためにやったことだから、他の者になるべくこの姿は見せたくないと。百度参りは本来誰にも知られずにやらねばならないものでもあるから、そんなことをしたら、お守りの効力が薄れてしまうかもしれないからと」
そして本当は、恥ずかしいので弦一郎にも見せないようにと言われているそうだが、蓮二はその約束を破り、とっておきのデータとして、この写真を弦一郎に披露したのだ。
そわそわと、弦一郎は靴の先を床に押し付ける。
「もう一度言うが、お前ほど想われている男はいないぞ、弦一郎」
今すぐ、走り出したい。
そんな気持ちを堪え、弦一郎は、震える声で、蓮二に待ち合わせ場所を尋ねた。