心に欲なき時は義理を行う
(九)
「舞妓になろうとしている、とお聞きしましたが、本当ですか」
弦一郎が低く尋ねると、蓮華はまず驚いた顔をし、蓮二を見た。
「……それも、蓮二から聞いたのかしら?」
「はい。お言葉ですが、あれは中学卒業すぐ修業に入るのがもっとも理想的とは言われていますが、その実なんの資格が取れるわけでもありませんし、国の保証があるわけでもありません。置屋が面倒を見てくれるとはいえ自由な時間は殆ど無く、途中でやめれば中卒学歴のまま放り出されることになる」
「……そうね」
「それでも、本当に舞妓になりたいですか?」
蓮華は、訝しげな顔をした。
弦一郎が舞妓について妙に詳しいのと、初対面でやたら突っ込んだことを聞いてくるのを不思議に思ったのだろう。いや、それだけでなく、少し不快そうな表情も混じっている。
「弦一郎くんの言う通り、舞妓や芸妓は存続を望まれている一方で、国から明確に保護されているわけでもなければ、国家資格なんかがあるわけでもないわ。途中でくじけたらまず路頭に迷うのはもちろん、衿替えして、置屋から一本立ちするときに失敗する人も多いっていうのも聞いてる。職業としては、特殊であるわりに報われないところは多いわね」
「それでも、あの世界に入りたいのですか」
「そうよ!!」
蓮華は、大声というより、悲鳴を上げた。
その声色は悲痛で、どこに向ければいいかもわからない、がむしゃらな懇願が篭っている。
「私は、紅椿の世界に惚れ込んだの。そして知れば知るほど、あの人の世界は京花柳界あってのものだっていうことがわかった。人じゃないみたいにきれいな姿は、あの世界じゃないと成り立たない。あの姿を近くで見るには、自分もそうならなきゃいけない!」
「そうなるのは、生半可なことではない」
弦一郎が、低い声で言った。
その目つきは眇めるようで、猛獣のように鋭かった。
「修行期間はまず家族には会えず、生活の全ては稽古と姉芸妓の付き人としての時間に充てられる。何から何まで行動を制限され、口の利き方から立ち振舞まで全て矯正され、舞妓になり、芸妓になる。終わりはない。本来の自分をすべて殺してあの世界の住人になることが、あなたに出来るのか?」
「出来るか、じゃないわ。やるのよ。やりたいのよ」
蓮華もまた、弦一郎の目を、恐れずに睨み返した。
その視線に、やや黄色がかった茶色をした弦一郎の目が、少し細まる。
「ほう? 人生を賭けることが出来る、と?」
「当たり前でしょ!」
蓮華は、堂々と言い切った。
「あの世界で途中で逃げ出したら、応援してくれた祖父母や蓮二はもちろん、お世話になった屋形からお姐さんから、あの世界の全てに泥を塗る事になるわ。私は絶対にそんなことしないし、それだけの人に助けてもらうんだから、自分の人生賭けるくらいの覚悟はあるわよ!」
いつの間にかソファから立ち上がり、胸を張り、演説でもぶつように朗々と言った蓮華に、蓮二はやや目を丸くする。
姉が一度決めたことを決して投げ出さないことはよく知っていたし、だからこそ舞妓になるという彼女を、弟として、当たり前に応援してきた。
しかしその覚悟をこれほどはっきりと聞いたのは初めてであり、そして、十六歳の身で、自分の人生についてこれほどきっぱりと迷いのない姉を、素直に凄いと思った。
「何より、私はあの世界が本当に好きなの! あの世界の住人になれるなら、なんでもするわよ! ……今のところ、何もさせてもらえないけどね!」
「そうですか」
あー! と叫んで頭を掻き毟る蓮華に対しての弦一郎のその相槌に、蓮二はちらりと彼を見た。
先ほど、蓮華を追い詰めるようにしていた弦一郎の口調は強く、敬語もほとんど抜けていたが、今の彼の口調は、再度静かで丁寧なものになっている。
「わかりました。……掛けて頂けますか」
──いや、今までより、きちんとした敬意がこもっていて、口先だけの敬語ではなくなっている。そんなふうに、蓮二は感じた。
そして蓮華は、なんだか様子の変わった弦一郎に更に訝しげな顔をしつつ、しかし、テーブルを挟んで、元の通りにソファに腰掛けた。
もちろん年齢は蓮華のほうが三つも上なのであるが、どっしりと座って真っ直ぐな目線を向ける弦一郎と、不思議そうな顔でちょこんと向かいに座る蓮華は、なんだか面接官と採用希望者のようだ。
シン、と静まり返った居間。弦一郎は、こほ、と小さく咳払いをしてから、自分の鞄から、封筒を取り出した。
その白い長四サイズ封筒に、蓮二は見覚えがある。弦一郎の部屋の押し入れ、いかにも秘密の、大事なものが入っていると言わんばかりの葛籠の中にぎっしりと仕舞われた、何百通にも登る封筒の山。
いま弦一郎が手にしているのは、おそらくあのうちの一通だ、と、蓮二は“データ”というよりは、単なる勘で確信した。
弦一郎は、その封筒を、自分の前にそっと置く。
あの葛籠の中の封筒と同じく、丁寧かつ繊細な字で“真田弦一郎様”と宛名が書かれており、刃物による几帳面な開封がされている。そして、あの時はよくわからなかったが、封筒の角と同じくきっちりと直角に貼られた左上の切手には、京都の消印が押されている。その下には、速達の赤い判子。
少し無理やり中身を突っ込んでいるのではないかというほど、かなりの厚みがある。
「あー……」
意味のない声を出してから、こほ、と、弦一郎は、もう一度咳払いをした。
なんだか落ち着かなさ気なその様子は、いかにも緊張しているようだ。不思議そうというよりは怪訝な表情のままの蓮華の視線を受けつつ、弦一郎は更にもう一度咳払いをして、ぴしりと隙なく座りなおし、今度こそまっすぐに蓮華を見る。
「……上杉、紅梅」
という名前を知っていますか、と、弦一郎は言った。
その声はいかにも慎重で、とても重たい。重要で、内密な、弦一郎にとって秘蔵の事柄であるというのが、ありありと分かる声だった。
「……ええ、と。紅椿のお孫さんで、次の紅椿って言われてる子の名前よね? 最年少名取の……」
「はい、そうです」
弦一郎は、ずっしりと頷く。
その名前は、蓮二も知っている。何しろ蓮華が紅椿に最初に興味をもったきっかけである、『美しき今』という番組の紅椿特集にて、彼女は紅椿と対比されるようにしてがっつり紹介されており、ちょっとしたブームもあとを引いた。
蓮二と同い年ながら次代の紅椿と呼ばれる実力は伊達ではなく、最年少で名取となり、海外での公演もこなしている彼女の名前は、『月刊日本舞踊』をはじめ、その系統の雑誌を購読していると、度々目にする名前でもある。
ややして、弦一郎は、自分の前に置いた、“真田弦一郎様”宛の封筒にそっと手をかけると、音もなく裏返し、蓮華に読みやすいよう、天地の向きを逆にした。
反射的に、蓮華だけでなく、蓮二も、差出人の住所氏名が書かれたその裏書を覗きこむ。そして、結果として、姉弟は、よく似たその面差しを同時に驚愕の色に染めることになった。
京都市内の郵便番号から始まり、住所。そして、その差出人氏名は──
──上杉 紅梅。
目も口もぽかんとまん丸くして、封筒と弦一郎の顔を何度も見比べる蓮華、そして何度読んでも変わらないのにまじまじと何度も封筒の文字を見続ける蓮二に、弦一郎は、こほん、とまた咳払いをした。
「……彼女は、その、俺の……」
ええと、と、弦一郎は落ち着かなさげに頭を掻いた。
「……手紙を、いえその、……あー、小学校二年生の時に知り合いまして」
「どういうことなの」
「小学校二年から、ということは、幼なじみのようなものか?」
もったいぶったわりに説明にまとまりがない弦一郎、そして唖然としている蓮華。そんな中、いち早く立ち直ったのは、蓮二だった。人間、周りが慌てていると妙に冷静になるものである。
「そう、……そういうことに、なるか」
うむ、と、弦一郎は、なんだか浮ついた様子で頷いた。
「それで、つまり。蓮二に頼まれて、貴女が『花さと』の舞妓になりたいと希望していることを彼女に伝えました」
「ひぁう!?」
「姉さん落ち着いて」
どこから出た、というような声を上げた蓮華を、蓮二は少し腰を浮かせて宥めた。蓮華は切れ長の目をこれでもかと見開き、蓮二も見たことのない顔になっている。
「ご存知のとおり、『花さと』は一般からの見習い、舞妓の募集をしておりません。多くは流派や身内、馴染みからの推薦だそうです。だが何とかならないかと、蓮二にも駄目で元々であると言い置いた上で頼みまして、それがこの返事です」
蓮華は、もう既に声もない。
姉が大事なことを聞き逃さないように集中力を高めつつ、蓮二は「それで?」と、弦一郎を促した。
「うむ。正直言って難しいが、──あー、いくらか口裏を合わせてもらえれば不可能ではない、ということなのだが……」
「口裏を合わせる、とは?」
蓮二は、既に開眼して、弦一郎を真っ直ぐに見つめている。
「まず、約束してもらいたい。これから言うことは、一切他言無用で頼む」
「家族であっても、か?」
「……なるべく」
「わかった」
蓮二があっさり、そしてしっかりと頷いたので、弦一郎は少し驚いた顔をした。
「弦一郎、お前に相当な無理を頼んだということは理解している。そのくらいの頼みは当たり前のことだ」
「そうか、ありがとう」
弦一郎は、ほっとしたような顔で肩を下げた。
そして蓮二が秘密を守る約束を即答でしてくれたからか、今までよりはいくらか落ち着いた様子で、弦一郎は改めて蓮華に向き直った。
「と、いうことなのですが。姉上殿。どうしますか」
「どうって……」
蓮華は、ぼんやりとして言った。
その様子にいささか不安になった蓮二は、呆れ半分でわずかに眉をひそめる。
「おい、姉さん。ちゃんと聞いていたのか」
「聞いてたわよ! ただ突然過ぎてびっくりして──」
「弦一郎は、俺達の、……姉さんのためにここまで無理を通してくれたんだ。しっかりしてくれ」
「……うん。ごめんなさい。──っよし! 大丈夫!」
数度大きく深呼吸をしてから、パン! と音を立てて自分の両頬を挟むようにして叩き、蓮華はもう一度「ごめんなさいね、弦一郎くん」と頭を下げた。いいえ、と弦一郎が小さく首を振る。
「さっきも言ったけど、私は『花さと』に入るためなら何でもするわ。弦一郎くんが言うなっていうなら、絶対言わない。死んでも言わないわ! だからどうかよろしくお願いします!」
素早くソファを降りて床に正座をし、勢いよく、そして深々と頭を下げた──ためらいなく土下座をした蓮華に、弦一郎は目を白黒させる。しかし、すぐにふっと小さく笑った。
「わかりました。その様子なら、本当に大丈夫そうだ。安心しました」
「弦一郎くんや、紅梅……さん、の顔に泥を塗ることは決してしないわ。誓う」
「ありがとうございます。──頭を上げてください。具体的な話をします」
弦一郎が仕切りなおすと、姉弟は佇まいを正した。蓮華は顔を上げてソファに座り直し、蓮二はノートとペンを素早く持ち出す。その様子を確認してから、弦一郎は続ける。
「……こうして伝手はあるが、実は、俺と彼女の繋がりは、あくまで個人的なものです」
「と、いうと? ご家族が『花さと』の馴染みということではないのか?」
小学校二年生からの幼なじみである、と弦一郎は言った。
京舞妓、しかも名妓中の名妓について見習いをしている人物とそんな関係であるならば当然そういう事情だろう、と想像していた蓮二に、弦一郎は小さく首を振って否定を示した。
「違う。うちは馴染みどころか、──その、出入り禁止を食らっていて」
「……は?」
さすがに予想していなかったそれに、蓮二も蓮華もぽかんとする。
そして、弦一郎自身も詳しいことは知らない、という前提で話された内容は、要するに現真田家当主である弦右衛門──弦一郎の祖父が『花さと』に何らの不義理を行い、出入り禁止を言い渡された、ということだった。
「俺はお会いしたことはないが、この件については、『花さと』の女将が特にご立腹の様子でな。紅椿殿はほとんど気にしていないようなのだが……」
尊敬する祖父の醜聞が心苦しいのか、弦一郎は顰めっ面で言う。
「気にしていないよう、というのは……」
「ああ、実際に本人が仰っておられた」
「……話したことがあるのか」
「何度か。うちに上がって食事をしていったこともある」
弦一郎はけろりと言ったが、蓮二はもちろん、蓮華など口をぱくぱくさせている。
「だから、つまり、……俺と紅梅がやりとりをしているのは、『花さと』としては望ましくないことであって……」
「待て。その、……紅梅さん、と、お前に個人的なやりとりがあることを、『花さと』は知らないのか?」
「ああ。それに、うちの……真田家も知らん」
「なっ」
「知られたら、それなりに騒ぎになるだろうな」
何しろ、男子禁制の世界である。しかもそれが次代の紅椿と呼ばれる秘蔵っ娘と、よりにもよって出入り禁止を言い渡されている家の子息とあっては、弦一郎の言う通り、それなり──、いや、何よりも体面を大事にする京花柳界のことだ。もしかしたらそれ以上の騒ぎになるかもしれない、と蓮二も易易と想像がついた。
「だから、他言無用、ということか……」
「うむ」
弦一郎はこくりと頷き、「口裏を合わせて欲しいというのも、そこだ」と続けた。
「姉上殿の習い事のスキルや知識、容姿などは、蓮二からデータ……、情報を貰って渡してある。その点において、これだけの素地があればまずどこの置屋でも大丈夫だろう、ということだった。無論、『花さと』でも」
その言葉に、放心状態だった蓮華が、いくらか気を取り戻したようだ。頭を数回振って、口元を押さえ、弦一郎の話をしっかりと聞き始めた。
「それに、俺は不勉強で知らなかったが、そちらのお祖父様は茶道の世界では有名だし、お祖母様も個展などを開いていらっしゃるのだろう? 名前を知っているようだった」
「そうか」
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、ありがとう……!」
蓮二は初めてほっとしたような笑みを見せ、蓮華は天に向かって祈るような仕草をした。
弦一郎の言う通り、蓮二らの祖父は趣味の茶道に熱心で、定年退職後から教室を開いているし、祖母は手芸を趣味とし、個展もよく開いている。柳家の人間らしくその趣味はかなりのレベルであるが、京舞妓が知っているほどとは思っていなかったので、姉弟は、己の祖父母を改めて尊敬した。
「だから、紅梅が姉上殿を紹介すること自体はそれほど難しくないのだが……、しかし、こちらは神奈川だ。どうやって知り合ったのか、ということになる。俺が繋ぎに入っていることがばれれば、紹介どころではなくなってしまうしな」
そうなれば、柳家が門前払いになってしまうのはもちろん、紅梅はただでさえ監視の厳しい生活が更に厳しくなるであろう、と弦一郎は重々しく言った。
そして彼は言わなかったが、弦一郎もまた叱られるどころではなくなる、というのは、蓮二にも蓮華にも、容易にわかる。
「ふむ、なるほど。そこで“口裏を合わせる”ということか」
「うむ」
「具体的には?」
「それだ。全く決めていない。蓮二、頼む」
あっけらかんと言い渡してきた弦一郎に、蓮二は、つい先程の蓮華のような顔をした。
「俺は、紅梅──、彼女から、姉上殿の人となりを見て、責任をもって紹介できるかどうか判断してくれと託されてきた。そして実際にこうしてお会いして、足りうると思ったからこうしている。だがこういう、口裏を合わせるとか──言い方は悪いが謀のたぐいは、どうもな」
「まあ、それはそうかもしれないが……」
真田弦一郎、彼には裏表というものがなく、常に率直で、正々堂々とした性格だということは、よくよく蓮二も知るところだ。だからこうしたことが不得手だという申告は最もだが、ノープランで丸投げしてきたのにはさすがに驚かざるを得なかった。
しかし、弦一郎はまるで既に肩の荷が下りたかのような気軽さで続ける。
「紅梅にも、もう話してある。とても頭の良い奴だから大丈夫だと言っておいた。任せたぞ、蓮二」
──とんでもないな、と、正直、蓮二は思った。
そしてその衝撃に、まず慄き、そして次に、武者震いが体中を駆け巡る。
京花柳界でも、人間国宝・紅椿が所属する『花さと』は、特別な置屋だ。そこに舞妓になるため弟子入りするというのは、無論、ただごとではない。普通なら、紹介するだけでも相当なコネクションが必要であるはずだ。
そして弦一郎や紅梅嬢にとっても、この行動はとてもリスクが高いことのはずだ。
しかし弦一郎は蓮二が頼んだ無理を通し、紅梅嬢はそれを受け入れた。
しかも彼女は、蓮華本人の人となりの判断を、弦一郎に丸投げしてもいる。これだけでも、弦一郎が彼女にどれだけ信頼されているのかがわかるというものだ。
──そして、同じように、そのための具体的なプランを丸投げしてきた弦一郎が、いかに自分を信頼してくれているのかということを思い知って、蓮二はもはや感動といってもいい、熱くこみ上げてくるものによって、できうる限りまっすぐに背筋を伸ばした。
「わかった。この柳蓮二、姉さんの弟子入りと、弦一郎たちの秘密を守ることを同時に成せるよう、全力以上を尽くすことを誓う」
「うむ、頼んだ」
弦一郎は、しっかりと頷いた。
蓮華もまた、「うん、蓮二に任せれば安心ね」と言ってくれたので、蓮二は重くのしかかる責任を感じつつも、それを上回るやる気と使命感で、いつになく芯のある声で「任せろ」と返す。
「では早速だが、これからのやりとりは、引き続き弦一郎を通せばいいのか? それとも直接紅梅さんに連絡を取る方向になるのだろうか」
「うむ。紹介してもいいだろうと判断したら渡せ、と、紅梅から二人宛に手紙を預かっている。おそらくこれに色々書いてあるだろう、受け取ってくれ」
弦一郎は、自分の前に置いていた分厚い封筒を手に取ると、中から、少し細めに折りたたみ、紙の帯で留めた便箋を、ふたつ取り出した。
糊付けで輪になっている帯には、一方では“柳 蓮華様”、一方は“柳 蓮二様”と書いてある。もちろん、封筒の宛名と同じ筆跡──上杉紅梅の筆跡だ。
蓮二もどきどきしたが、蓮華は胸に手を当て、実際に呼吸を整えている。
そして二人はそれぞれ恭しく手紙を受け取ると、丁寧に帯を抜き、──便箋を広げた。