第5章・Glückes genug(満足)
<7>
「アルデバランの修行をつけてやってくれ」
「冗談こくな」
 子供にしては随分背が高いとはいえ、自分より頭ひとつ分身長の低い少年を一瞥もせず、男はもくもくとジャガイモを剥きながら、にべもない返事をした。素っ気なくされたカプリコーンはむっと唇を尖らせる。しかし男はやはりジャガイモから目を逸らさない。
 カプリコーンの背後には、緊張気味な面持ちのアルデバランが立っている。デスマスクは提案するだけして、アフロディーテを引きずってどこかに行ってしまったのであるが、いつものことなのでカプリコーンは気にしないことにしている。
「なんでだよ。いいだろおっさん」
「いいも悪いもあるか。びっこ・・・ひきに黄金聖闘士の師匠になれ? 笑えん冗談だ」
 男は綺麗に皮を剥き、芽も取ったジャガイモを、厨房の壁際、2メートルは後ろにある、使い古した桶の中に放り込んだ。──見もせず。
 男の名は、トニといった。
 トニはもともと聖域の外の人間だったのだが、体格に恵まれた孤児であったため、幼少の頃に聖域に引き取られた。
 聖闘士になるには、段界がある。まず修行、そして師匠から聖闘士の資格を得る許可を貰う。所謂免許皆伝のようなものだ。ここまで来るのも相当なものなのだが、これだけでは正式な聖闘士とは見なされない。聖闘士とは聖衣あっての聖闘士で、聖衣のない聖闘士は聖闘士ではない。
 つまり資格を得たあと聖衣を賜って初めて聖闘士と呼ばれるわけだが、この聖衣を得ることが出来る確率は、聖闘士資格を得られる確率よりもさらに低い。そもそも聖衣の数には上限があるし、度重なる聖戦で行方不明になっている聖衣も沢山ある。
 努力だけではどうにもならない運、聖衣との縁。それを聖域の人間は、星に選ばれる、とも例える。
 トニは、聖闘士資格を持っていた。しかし、星に選ばれることはなかった。そして、聖衣を賜らぬうちにとある事故でトニは足をあわや切断かというまでに痛め、聖闘士への道は断たれた。20の時だった。
 まともに走ることも出来なくなったトニは、雑兵であることすら出来なくなった。しかし食堂の料理長と懇意だった彼はそこで働くようになり、いつしかその腕を認められ、二十年経った今では、教皇の間で料理長を務めているのだ。
 トニは毎日、教皇と、そして育ち盛りだという以上に食欲旺盛な黄金聖闘士たちの食事を拵え、また十二宮勤めの雑兵たちに賄いを振る舞っている。
「あんた、前は黄金聖闘士もいけるかもって言われてたんだろ?」
 カプリコーンが、やや興奮気味に言った。しかし、初めて自分の先輩らしい先輩を目にした、というような少年の目線にもトニは振り向かず、ただ「懐かしすぎて欠伸が出る昔話だな」とだけ言い、奥まった所にあるジャガイモの芽を真剣に取り除いていた。
「なんでダメなんだよ!」
「うるさい坊主だな、仕込みの邪魔だ、とっとと出てけ」
「おい、ちょっとぐらい考えてくれたっていいだろ馬鹿!」
「馬鹿?」
 トニが、初めて振り向いた。ぎろり、と向けられた茶色の目に、発言したカプリコーンだけでなく、アルデバランも怯んだ。
「何だその口の利き方は」
「な、なんだよ」
「てめえ何様だ。黄金聖闘士と料理長の俺と、どっちが偉いと思ってる」
「………………」
 有無を言わせない声だった。纏ったエプロンには古い染みが沢山あり、聖衣さながらの年季が入った風情を醸し出している。
「ちなみに今すぐさっき言った言葉を訂正しないと、今日のお前の夕飯は抜きだ」
「……ごめんなさい」
 カプリコーンが冷や汗とともに謝罪すると、トニは「わかればいい」と頷き、再度ジャガイモの皮を剥き始める。
「なあ、ホントにだめなのか?」
「何度言えばわかる。料理長に黄金聖闘士の師匠が勤まると思ってるのか」
「……さっき言ったのと反対じゃ」
「役割の問題だ」
 最後のジャガイモが、桶の中に放り込まれた。
「でもアンタ、この間、雑兵たちの喧嘩をひとりで止めたんだろ? デスマスクが言ってた」
「あのクソガキ」
 忌々しそうに、トニは吐き捨てた。
 外界に居た頃はイタリアに居たというトニに、デスマスクはよく懐いていた。訓練をサボっている時は、大概この厨房の隅でジャガイモだの人参だのの皮を剥いていたり、最近では簡単な料理さえ習っている。
 そしてデスマスクがトニを師匠にと推薦したのは、この一件がきっかけであり、原因だった。
 先日何を発端にか、雑兵たちの大乱闘が起こった。聖闘士にはなれなかった、しかし一般人よりは遥かに体力も体術も優れた雑兵たちが、頭に血が上った衝動のままに辺り構わず飛びかかり取っ組み合っている有様は、黄金聖闘士たちでさえどう止めようもない有様だった。
 もちろん、雑兵の乱闘に割って入ったぐらいで、“黄金の器”たちが怪我をすることなどありえない。しかし小宇宙の闘法を下手に使ってしまえば、あくまでなりそこないでしかない雑兵たちが死ぬかもしれない。
 だから仕方なく、重傷者が出るかもしれないが自然に落ち着くまで放っておくしかないか、という見解が出始めたとき。トニが脚を引きずりながら降りてきて、あっという間に乱闘を鎮圧してしまったのだという。小宇宙を使ったということはカプリコーンやデスマスクたちにもわかったが、その手際は実に鮮やかで無駄がなく、まるで手品を見ているようだった。トリックどころかただ単純な手の動きであるはずなのに、巧みすぎて魔法にしか見えなかった、と。
「トニ料理長」
 カプリコーンが、きっぱりした声でそう呼んだ。トニが振り向く。
「お願いだ。アルデバランに力を貸してやってくれ」
「カプリコーン」
 隣に居たアルデバランがカプリコーンを見上げると、彼は意を決したような顔をしていた。自分のためにそんな顔をしている三つ年上の少年に、アルデバランは感動半分で、少し戸惑った。そしてそんな二人を見て、トニが小さくため息をついた。
「おい、子牛の坊主」
「は、はい」
「お前はどうなんだ」
「……俺は」
 やたら年季の入った染みだらけのエプロンの威厳と、まっすぐに見下ろしてくるトニの視線にアルデバランは怯んだが、しかしその目線を真っすぐに見返しているカプリコーンを隣に見て、自分も背筋を伸ばした。
「強く、なりたい」
「………………」
「でも、強いだけじゃだめだって、わかった。ちゃんと使えるようにならなきゃ、意味がないんだ。そう、なりたい」
 はっきりと自分の意思を口にしたアルデバランに、カプリコーンが僅かに満足げな笑みを浮かべる。トニはそんな様を見て、今度こそ大仰なため息をついた。
「俺は聖闘士じゃない、料理長だ」
「でも、料理長は黄金聖闘士より偉いんだろ?」
 アルデバランが言うと、トニは初めて笑った。にい、とつり上がった片頬、ちらりと除いた歯は、八重歯が飛び出していた。
「わかってりゃいい」
 重要な所だからな、とトニはにやにや笑った。
「──じゃあ!」
「だがな、俺が教えられるのはあくまで、元聖闘士の料理長としての技術だ」
「……つまり、どういうことだよ」
 トニはフンと鼻を鳴らし、よく研がれた包丁で、カプリコーンとアルデバランの背後を指し示した。
 一抱え以上もある桶の中に入っているのは、まだ土がついたままの、大量のジャガイモだった。
「……修行つけてくれる代わりに手伝えって?」
「料理長の聖闘士修行はなあ、何においても、まず皮剥きから始まるんだ」
 トニはそれだけ言うと、今度はスープの仕込みに入り始め、夕飯が出来るまで二度と口を開かなかった。



「はかどってるか?」
 わざわざ教皇宮まで上がってきてそう声をかけたのは、訓練帰りのカプリコーンだ。後ろには、彼に引きずられてきたデスマスクとアフロディーテが居る。脚の間にジャガイモの樽を挟んで座り込み、もくもくと皮むきをしていたアルデバランは、にこにこして彼らを見上げて、「前よりは随分良くなったよ」と返事をした。
「本当だ。薄いな」
 デスマスクが感心した声を出す。アフロディーテが摘まみ上げたジャガイモの皮は、光が透けるように薄い。カプリコーンは「いい感じじゃないか」と笑った。
 ただの月謝代わりの手伝いかと思いきや、トニが課したジャガイモの皮むきは、立派な修行の一環だった。
 “黄金の器”たちは、生まれつき小宇宙をその身から溢れさせている。つまり、どんなに抑えようとも、その一挙手一投足には小宇宙が載っている。アルデバランの場合はそれが少しであろうとも凄まじい握力であったり腕力であったりするので困っていたわけだが、ジャガイモの皮むきを始め、細かい道具の手入れやら掃除やら、はたまたかなりの力仕事やら、トニが課す全ての作業は、用途に合わせて小宇宙を大幅に調節しないとやっていけないものだった。
 しかし、人間相手にやっていては相手にいちいち大怪我をさせかねない組み手と違い、相手は野菜や食器なので、アルデバランは、かなり気を楽にしてその“修行”に取り組むことが出来た。もちろん食材を無駄にしたり食器を割ったりすればぶん殴られるが、それでも、アルデバランにとっては、何かを掴むだけで相手の骨を折ってしまう心配をするよりはずっとましだった。
「料理長がさ、そろそろ技を考えろって」
「へえ! じゃあ聖衣の試練を受けるのももうすぐかもな」
 カプリコーンが言うと、アルデバランは嬉しそうにはにかんだ。ジャガイモの皮をすっかり薄く剥けるようになったアルデバランは、今ではミロとも半々の勝敗を保っている。
「うん、でも、いいのが思いつかなくて困ってるんだ。どうしようかなあ、技」
「うーん」
 “力”というシンプル極まる力だけに、アルデバランはそれをどういう技に昇華するべきか悩んでいるらしい。カプリコーンはなるほどと頷いた。
「そうだな、俺は、本を色々読んでみるのもいいと思うぞ」
「本?」
 カプリコーンは頷いた。
「俺は斬撃の特性があるし、体術が一番得意だから、剣術や武器格闘術の本を沢山読んだんだ」
「へえ……」
 学問は学問、実技は実技、と完全に分けて捉えていたアルデバランは、いかにも目から鱗が落ちたという風に明るい茶色の目を見開き、カプリコーンを見た。そして、感心しているアルデバランに機嫌を良くしたのか、カプリコーンは得たりと頷く。
「そうだ、その中で、日本の居合道っていうのがあってさ。これがすごくカッコよくて強いんだ。俺、本持ってるから、貸してやるよ。何か参考になるかもしれないしさ」
「うん」
 的確なアドバイスを貰えたアルデバランは、嬉しそうにこくりと頷いた。
「デスマスク、お前図書室入り浸ってるだろ。いいのがあれば教えてやれよ」
「へえへえ、わっかりましたよ」
 きびきびしているカプリコーンに対し、デスマスクはだらだらした口調で、アルデバランが剥いたジャガイモに剥き残しがないかを気まぐれにチェックしている。
「……カプリコーンは、どうして俺に色々してくれるの」
 ふと、アルデバランは尋ねた。それは前から常々思っていたことであり、聞いてみたかったことだった。一緒に訓練をするようになってからは特に、カプリコーンはよくアルデバランの面倒を見てくれる。それはアルデバランにとって言葉に言い表せないほどありがたいことだったが、カプリコーンが何故自分にここまでしてくれるのかわからず、少し戸惑っても居たのだった。
「うん、」
 カプリコーンは、はにかんだような顔を見せた。彼はしばらく目線をあちこちに漂わせたあと、少し乱暴な仕草でしゃがみ、開いて曲げた膝の上に、伸ばした肘を乗せた。
「……何ていうか、俺はここに来てから、……つまり」
「?」
「……聖闘士の訓練とか、……格闘術とかさ」
「カプリコーンは格闘術が好きだよな」
 実際一番上手だし、とアルデバランが言うと、カプリコーンは嬉しそうに笑った。アルデバランの言う通り、カプリコーンは格闘術が好きで、そして好きこそものの上手なれという言葉通り、体術に関しては時々サガやアイオロスを出し抜くほどだ。
「俺、ここに来るまで、全力で走り回ったことなんかなかったんだぜ」
「嘘!」
「本当、本当」
 目を見開き、ごとりとジャガイモを取り落として驚いたアルデバランに、カプリコーンはからからと笑う。
「それで……。うん、俺は……嬉しいんだよ」
 カプリコーンは、青い空を見上げて、今度はひび割れた白い石の地面を見つめた。
「うれしい?」
「……嫌なこととか、こっちに来て、全部消えて……」
 ぼそぼそとした声は、打ち震えているようですらあった。デスマスクが、同い年の少年のその様子を静かに見ている。
「やりたいことをやってる。聖衣も得られたし、毎日お前らと走り回ってさあ、ルイザはケーキを焼いてくれるし、料理長やシオン様は、俺を容赦なく殴るしさ」
「……………………」
「俺はそれが、すごく嬉しいんだ」
 本当に嬉しそうな声と、表情だった。
「だから俺は、うん、お前にも、そう思って欲しいんだ」
「カプリコーン」
「お前さ、“俺はだめな奴なんだ”って言っただろ」
 アルデバランは、じっと彼の言葉を聞いていた。そう、そしてそう言ったアルデバランに、カプリコーンは言ったのだ。「お前はだめなんかじゃない」と。
「でも言葉で言っただけじゃ、なんだ、ええと」
「納得できない」
 ボキャブラリがあまり豊富ではないカプリコーンを、デスマスクが助けた。カプリコーンは「そう、それ」と頷いて、続けた。
「だから、お前がホントにだめなんかじゃないってわかるようにしようと思ったんだよ」
 カプリコーンは、さらりと言った。
 アルデバランはしばらく呆然としていたが、カプリコーンの琥珀色の目を真っすぐに見ることが出来なくなり、きれいに皮を剥かれたジャガイモの山に視線を移して、ぼそぼそと言った。
「……ありがとう」
「ん? ああ」
 対してカプリコーンは、実にけろりとした、ただただ満たされたような顔をして、あっさり頷いた。
「あとは名前さえ決まれば、俺はもう満足なんだけどなあ」
「ああ、そうか」
 そういえば、“カプリコーン”は名前ではなかったのだった、とアルデバランは思い返す。
「別に俺は“カプリコーン”のままでもいいんだけどさ、……別に不便なこともないし。でもコイツが何かっていうと“名無し”とか“山羊”とか“坊ちゃん”とか呼ぶから」
 カプリコーンがじろりとデスマスクを見遣ると、デスマスクは思い切り小馬鹿にしたように、「ハ!」と鋭く笑い飛ばした。
「名前がいらねえって、お前馬鹿か。アイデンティティってものを持てよ」
「アイデン……何?」
 カプリコーンが首を傾げた。アルデバランももちろんわからない。
「格闘技関係の本意外も読みやがれ、馬鹿山羊」
「馬鹿馬鹿言うな。失礼だな、俺だって色々読んでるぞ」
「『King Arthur』だろ。ハマった挙げ句に技名にしてりゃ世話ねえぜ。“エクスカリバー”ってお前、スペイン人でギリシャの戦士で技名イギリスって何ソレ」
「お前だってイタリア人のくせに“積尸気冥界波”だろう」
「だって漢字かっこいいじゃん!」
 三国志を読め! と、デスマスクが自分のマイブームを叫んだ。それは恒例の言い合いに発展するが、アルデバランは今度はおろおろせずに、ただ苦笑した。アフロディーテが、マイペースに大きな欠伸をしている。
「まあ、とにかく、アルデバランは技、山羊は名前、どっちにしろ図書室通いだな。アフロディーテもいい加減絵本から卒業させなきゃなんねえし」
「デスマスク、手伝ってくれるのかい?」
 アルデバランが、期待を込めた目でデスマスクを見上げた。
「しょうがねえ。どうせ探す本の目安もつきゃしねえんだろ?」
 どいつもこいつも本読まねえ脳筋ばっかりだからな、とデスマスクが呆れ半分、そして自分の読書量を誇る自慢半分で言うと、アルデバランは、へへ、と笑った。知ったかぶり程度なら子供の粋がりでしかないデスマスクの発言だが、戦闘訓練をさぼって図書室にこもっている時が度々ある彼の読書量は、本当に半端ないのだ。
 聖闘士として生きていかなくてもいいように聖闘士になる、という反骨的な目的を持つデスマスクとしては、いざという時実力行使に対処できる格闘術訓練も重要だが、それよりも沢山の知識を得ることが重要だ、とも考えていた。
 ただ単にそれが人一倍知識欲に溢れるデスマスク少年の性に合っているからでもあったが、まともに学校に行った経験も皆無であるはずの彼の知識と思考能力は、既に大人顔負けになりつつある。
「……終わった!」
 最後のジャガイモを綺麗に剥いてしまったアルデバランが、桶を持ってすっくと立ち上がった。
「これ料理長に渡したら、図書室行こうよ」
「早速だな。別にいいけど」
 どうせ行くとこだったし、とデスマスクが言った。
「で、デスマスク、図書室ってどこー?!」
「場所も知らねえのかよ!」
 駆け出しながら大声で言ったアルデバランに、デスマスクが今度こそ呆れた声で言う。そしてすっかり自信と向上心を取り戻して生き生きしているアルデバランに、カプリコーンは僅かに笑った。
「デスマスク」
「何だよ名無し」
「俺もどこから手を付けていいのか」
「あーわかったよ! お前の名前も手伝えばいいんだろ!」
 皆よりずっと大人びているせいだろうか、なんだかんだと言って、デスマスクは世話焼きだ。ミロや他のちびたちにすぐ罵声を吐いたり拳骨をお見舞いしたりするのも彼だが、寝小便の始末やら食事の世話やらの面倒をよく見ているのも、字どころか話すことも人並みから遠いアフロディーテに絵本を選んでやっているのも専ら彼であることを、今では皆当たり前に知っている。だから彼がどんなくそガキ極まるような悪態をつこうと、いまいち皆彼を憎めないのだ。
 それが彼の素であるのか策であるのかは、よく分からないけれど。
「その代わり、体術訓練付き合ってやるよ」
「……あ?」
 虚を突かれたような声と表情で振り返ったデスマスクに、カプリコーンは悪戯っぽく笑んだ。
「俺の体術の腕、知ってるだろ。一対一で見てやる」
「あー……」
 体術よりもまず知識、と図書室にこもりがちなデスマスクだが、実際に黄金聖闘士になるために、つまり聖衣を得る試練を受けられる基準はやはり身体能力なのだ。だからこそ体術の才能に恵まれ、人一倍訓練をしたカプリコーンは、いち早く聖衣を得ることが出来た。しかしその実情は、デスマスクにとってとても歯がゆいものでもあった。
「帰るんだろ」
 手伝ってやるよ、とカプリコーンはボリュームを落として、“秘密”をひっそりと呟いた。デスマスクもまた、「おう」と、とても小さい声で返事をする。
「よし! 今週中に組み手三百本だ、覚悟しろよ!」
「抜かしやがれ! 今週中に少なくとも十五冊は読ませるからな!」
 二人はそう言いあい、「早く!」と手を振って呼ぶアルデバランの方へ、飛ぶようにして走って行った。
第5章・Glückes genug(満足) 終
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Annotate:
 「びっこ」は足の悪い人、という意味で放送禁止用語に分類されますが、情緒を出す演出のためにあえて使っており、差別的意図は含んでおりません。
 デスマスクは三国志ものすごく好きそう。そして魏贔屓っぽい。日本の戦国武将なら織田信長か松永弾正(久秀)と予想。勝てば官軍、力こそ正義!(雑談すみません)
BY 餡子郎
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