第2章 Kuriose Geschichte(珍しい話)
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──ぐちゃり。

 もう何度目になろうか、少年は刃を振り下ろした。最初にそうしてから一瞬しか経っていないようでもあり、もう千夜を越えたような気もした。だが、何度やっても足りないのだから仕方が無い。千に刻もうとも万に刻もうとも“それ”が消えてなくなってしまうことはなく、ただ細かくなっただけだ。
 少年は、苛立ちと、虫酸が走るような嫌悪感と、どこか知らない所へ突き抜けたような爽快感を味わっていた。

 ──ぐちゃり。

 もうとっくに原形をとどめていない“それ”は、絨毯に染み渡り、じわじわと広がっていた。“それ”の八割は水分で出来ている、と本で読んだことを少年は思い出した。
 しかしそれでも足りはしない。消えてなくなるまで細切れに、もっともっと。柔らかい所はそれなりに細かくすればだいたい床に染み込んでいってしまうのだが、硬く白いところはそうもいかないのだ。もっと細かくしなければ。

 ──ぐちゃり。

 少年はまばたき一つせず、じっと“それ”を見つめながら、ひたすら刃を振り下ろし続けていた。
 最初はナイフだった。オレンジを剥く為の小さなペティナイフ。それは簡単に撥ね除けられて部屋の隅へ、くるくる回りながら飛んで行った。だけれど、少年にはそんなものは要らなかった。彼はもっといい剣が備わっていたのだから。
 汚物以外の何ものでもない血と肉。それがぐっしょり染み渡ったシャツやズボンの不快さに少年が嫌悪も露に思い切り顔をしかめた時、部屋に入ってきたメイドが、凄まじい悲鳴を上げた。
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BY 餡子郎
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