ホグワーツ特急
 線路がどこにどうやって敷かれているものか全く不思議なものだが、汽車はすぐにロンドンを抜け、牛や羊がまばらに見える牧場や、広い野原の側を走り抜けていく。
 そして、十二時半頃に車内販売がやって来たのもあって、四人は昼食を摂ることにした。弦一郎と紅梅にとっては、兼朝食、ブランチである。

 紅梅の葛籠に入れて持ってきたおにぎりは、彼女と弦一郎の二人分してもずいぶん多めだったので、精市と清純も、ありがたくそのおすそ分けを頂くことにした。
 車内販売でも売っているパイやケーキが口に合わないことはないのだが、やはり甘いものばかりを昼食にする文化はまだ慣れないし、長く日本を離れることを考えると、鮭や梅や昆布のおにぎりは、なんとも魅力的だったのだ。
 そのため、精市が持ってきていたベーグルサンドと、清純が車内販売でパイやケーキを買い、弦一郎と紅梅が持ってきたおにぎりと等分して、皆同じくらいの量を分けて食べることにした。
 ついでに、全員が初めて見る魔法界のお菓子も、それぞれ適当に買った。

「へぇ〜、四つの寮。みんなどれかに組み分けされるの?」

 鮭のおにぎりを頬張りながら、清純が言った。
 古い魔法使いの血筋であり、両親とも魔法使いである精市は、弦一郎たち三人とは比べ物にならないほど魔法界に詳しい。

 それぞれ祖母、曾祖父が魔女、魔法使いとはいえ、両者ともが故人であるためにほとんどマグル生まれである清純と弦一郎は、色々と彼に質問し、事前情報を得た。
 紅梅は祖母がホグワーツの卒業生であるので二人よりは情報源があるはずなのだが、何を質問しても大抵「前のこと過ぎて忘れた」だの、「どうせ行ったらわかる」だの言われてあしらわれるので、二人とそう変わらない知識しかないらしい。

「うん。グリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフ、ね。ただ四つに分かれているわけじゃなくて、それぞれなんとなく寮の特色というか、生徒の性格の傾向があるんだって」

 グリフィンドールは、勇猛果敢で、騎士道精神を持ち、優れた魔法使いを過去数多く排出した寮だ。現校長のアルバス・ダンブルドアも、グリフィンドール出身である。

 スリザリンは狡猾な者が集まる、とも言われているが、それよりも古い魔法族の家系の血を持つ者が集まる寮、という印象のほうが大きいようだ。それに比例して例の純血主義を強く持つ者も多く、それゆえ他の寮、特にグリフィンドールとの対立が目立つ。

 レイブンクローは機知と叡智に優れた者が集うと言われ、要するに勤勉な者や学力が高い者、また学者、研究者肌の者が多く見受けられる。成績優秀者は大体がこの寮に集まっているという。
 それを聞いて、弦一郎と紅梅は、この間会った、博士、教授、と呼び合う二人の姿を思い浮かべた。

 そしてハッフルパフは、心優しく温厚な心根の持ち主が多い。
 その穏やかさ故に、苛烈な性格の他寮の生徒から、愚鈍だとか、劣等生の集まる寮だと見下されることもあるが、その実、才能を地道な努力で凌駕することの出来る真面目な者や、他人を否定せず広く受け入れる包容力の持ち主が集まっている。

「それに、ハッフルパフの出身者には、“例のあの人”に付き従った闇の魔法使いが殆ど出ていないところも特徴かな。一番多いのはスリザリン。そのせいで、最近特に孤立しているというところもあるね」
「学校のクラス分けで、そないなことも関係してくるんやねえ」
 赤い塗り箸でおにぎりと漬物を食べていた紅梅が、少し複雑そうな顔で言うと、説明していた精市も、困ったような顔で肩をすくめた。

「確かに、嫌な話だ」
「くだらん」
 弦一郎はおにぎりを大きく頬張り、咀嚼して飲み込んでから、きっぱりと吐き捨てた。
「我々は学生で、留学生だ。どの寮に配属されようと、学生として勤勉に学ぶだけだ」
「……真田はグリフィンドールっぽいなあ。騎士道というよりは、武士道だけど」
 ははは、と笑ってから、精市はベーグルサンドを頬張った。

「ま、でも、真田くんの言うとおりだと思うよ。“例のあの人”とやらももういないんだったら、あとは大人の仕事さ。学生で子供の俺達が、わざわざそんな小難しいことに首を突っ込んで、子供同士で喧嘩したってしょうがないよ。せっかく遠い学校まで来たんだから、楽しくやりたいな」
 ぺろりとかぼちゃのパイを平らげた清純が、のほほんと言う。精市が頷いた。

「楽しく……か。そうだね、楽しく過ごせればそれに越したことはない」
「でしょ? というわけで、別の寮になっても仲良くしてね〜」
 そう言って、今度は糖蜜パイを「いただきまーす」と言って手に取る清純に、三人は頷き、そして微笑む。
 千石清純、彼はきっとハッフルパフではなかろうか、という気持ちとともに。



 昼食を食べ終わる頃には、のどかな田園風景はもうなくなっており、車窓には、荒涼とした風景が広がり始めていた。昼間だというのに緑ではなく真っ黒に見える森や、その合間を流れる曲がりくねった川、鬱蒼とした暗緑色の丘。
 田舎のほうに行けば必ず山に囲まれる日本の景色に慣れていると、それはいかにも外国の風景で、そしてなんとも異世界じみていた。もう少し時間が遅ければ、不気味、とも思ったかもしれない。

 それにしても、魔法界ならば、こうして汽車など使わずとも、それこそ瞬間移動──イギリス魔法界では、“姿現し”・“姿くらまし”というらしい──で向かえばいいのでは、と今更な質問を紅梅がすれば、マグル避け、またセキュリティ面の理由から、ホグワーツへ向かうには、キングス・クロスからのこの列車しか手段がないようにできているのだ、と精市が言った。
 そして、到着はまだまだ、もっと暗くなる頃になるようだ。

 食事のあとは、引き続き情報交換がてらのお喋り、また車内販売で買った魔法界のお菓子を囲んでみたりしながら、時間が過ぎていった。
 百味ビーンズという罰ゲーム用かと思うようなゼリービーンズを食べてみたり、掌サイズの五角形の紙箱に入った、蛙チョコレートを開けてみたりもした。

 蛙チョコレートはその名の通りの蛙の形をしたチョコレートで、ちょうどアマガエルくらいの大きさだったが、なんと、そのアマガエルと同じように跳ねる。
 あまりにリアルな動きなので、最初はただの焦げ茶色のカエルかと思ってびっくりしたが、精市が掴んで口に入れ、もぐもぐしながら、ただのチョコレートだ、とのたまった。
 三人は動くチョコレートよりも、本物のカエルにしか見えないそれを精市が躊躇なく口に入れたことの方に唖然とした。

 また、蛙チョコレートは有名な魔女や魔法使いの写真がついたトレーディング・カード付きで、しかも、ついている写真が動く。裏には、その人物の略歴やプロフィールが書いてあるようだ。

「これ、楽しいの?」
 いくつか買ってはみたものの、過去の偉人達であるだけあって、だいたいが髭面の老・中年魔法使い、しわだらけの老魔女ばかりが書かれたカードに、清純が呆れた声を上げる。
 若いころに活躍した場合はその年齢で描かれる者もいるようだが、あまり数は多くない。いくら魔法のカードでも、肝心の写真がこれというのはどうなのだろう、と、正直あまりぴんとこない四人は、それぞれ疑問符を飛ばした。
 そして、また一匹蛙チョコレートを捕まえて口に入れた精市が、カードをぴらりと手にとり、裏返して、英語の文章を日本語に訳しながら読み上げた。

「ハインリヒ・コーネリウス・アグリッパ。神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世に軍人として仕え、1507年からはフランス・ドール大学で聖書学を講義。魔女として告発された農家の主婦を、熱弁を振るって救った──、だって。……まあ、魔法界の歴史上の人物を覚えるのには、適してるんじゃない?」
「えー、そんな、進研ゼミの付録みたいな……」
 首を傾げながら言った精市に、清純が呆れた声を上げる。

「……む」
「弦ちゃん、眠いん?」

 顔を顰めて腕を組み、会話に参加しない弦一郎が、実は眠いのをこらえてうつらうつらしているのだと気づいた紅梅が、声をかける。
 かくん、と頭が落ちたことで意識を取り戻したらしい弦一郎は、ふるふると頭を振って、眠気を覚まそうとしているようだ。だがその今にもくっつきそうな瞼を見る限り、全く効果は出ていない。

 しかし、仕方がないことである。弦一郎は今朝、僅かな仮眠をとって時差のあるイギリスに飛んできたため、あまり寝ていないのだ。
 列車に乗るために神経を張り巡らしていたので今まで起きていられたが、元々が規則正しすぎる生活をしている上、時差ボケの反動と、空腹が満たされたこと、また列車の振動によって、眠気はどんどん大きくなり、とうとうピークに達していたのだった。

「着くまで、寝とったら? 別に、やらなあかんこともあらへんし」
「うむ、……」
 その唸るような返事も、明らかに眠そうである。
 しかし、寝ていないのは紅梅も同じはずだ。弦一郎はあくびを噛み殺しながら、「お前は?」と、やはり眠そうな声で聞いた。
「うちはお座敷出るんに、遅ぅまで起きとることあるし。今も目ぇ覚めてもうてるから、平気。着く前に起こすよって、寝ぇな」
「む、……うむ、……では、悪いが、頼む」
「へぇ。はい」

 紅梅がにっこりして、自分の膝、いや、揃えて座った太ももをぽんと叩く。
 眠気が限界も限界だった弦一郎は、ほとんどくっつきかかっているまぶたの隙間から彼女を見ると、もう返事すらせず、紅梅のいる右の通路側に倒れるようにして身体を横たえた。そして、示された膝にそのまま頭を乗せる。
 一瞬にして、すぅー……、と、寝息が聞こえはじめた。

 カードを見て清純とあれやこれやと言っていた精市は、向かいの座席で起きたその光景に唖然とし、次いで、すうっと目を眇めた。

「ちょっと、……ええ? おい、いいご身分だな真田」
「ねえ、何あれ。ナチュラルに膝枕って、この二人っていつもこう?」
 そして同じく、目の前の光景に呆気にとられていた清純が、彼の袖をちょいちょいと引き、耳元にこそこそと話しかける。
「いや、知らないけど。あんまり二人が一緒にいる所見たことないし」
「そうなの?」
「だってちゃん、京都に住んでて、俺達は神奈川だし。俺が会ったことあるの、ちゃんが神奈川に来てる時だけだよ。その時は、こんな風じゃなかったんだけど──」

 こそこそとした二人の会話に気付いているのかいないのか、紅梅は左腕を伸ばし、横たわる弦一郎の、座席に着いている肩口あたりに手を置いた。
 見ようによっては、膝の上の弦一郎の頭を抱いているようにも見える姿勢だ。そしてそうすることにより、和服の袖がうまい具合に影になって、車窓から差し込む光を遮り、弦一郎の顔を陰らす。
 尚一層寝やすくなったからか、弦一郎の寝息が更に深くなる。いかにも爆睡、といった風だった。
 その様に、精市はなお呆れ返った顔をし、清純は何やら生暖かい目になった。

「ねえ、ちょっといい? 今さっき、アグリッパって言わなかった?」

 その時、わずかに開けられたコンパートメントのドアの隙間から、燃えるような赤毛をした、ひょろりと背の高い、そばかす顔の男の子が声をかけてきた。



 赤毛の男の子は、ロナルド──ロン・ウィーズリーといった。
 隣のコンパートメントにいた彼は、蛙チョコレートについているあのトレーディング・カードのコレクターなのだが、まだ揃っていないカードがいくつかあり、そのひとつがアグリッパであるらしい。

「ごめん、いきなりだとは思ったんだけど、ずっと出なかったカードだからさ……」
「構わないよ。アグリッパのカードって、これ?」
 話しかけてきた割には遠慮がちなロンに、精市は先ほど説明文を読み上げたカードを取って示した。途端、ロンの顔が明るくなる。
「それ! 間違いなくアグリッパのカードだ! ねえ、もしよかったら、それ、譲ってくれない? トレードでもいいよ」
「俺は構わないよ。千石とちゃんは?」

 蛙チョコレートは、四人がそれぞれ少しずつ買ったものだ。アグリッパの所有権が誰にあるのかが曖昧な所だったので精市は一応聞いたが、二人共あっさりと「いいよ。全部あげる」「へぇ、うちも。大事おへん」と言った。

「というわけで、えーと、全部で十二枚だね。どうぞ」
「わあ!」
 アグリッパを含め、束でカードを渡されたロンは、「すごい! プトレマイオスもある! あ、こっちはレアカード!」と興奮気味に言った。
 四人にはさっぱり価値のわからなかったカードだが、彼には宝の山だったらしい。

「あのぅ、ミスター・ウィーズリー。寝とるお人がいてますよって、すこぉし、お声を下げて貰えまへんやろか」
「えっ、……ああ、ご、ごめん」
 紅梅が少し困ったような顔で、口に人差し指を当てて言ったので、ロンは慌てて自分の口を押さえる。そしてもう一度、小さな声で「ごめん」と彼が口にすると、紅梅はにっこりと微笑み、「おおきに」と言った。

 ロンはそばかすの散った顔を少し赤くすると、更に声をひそめて、半分コンパートメントから身体を出している精市と千石に話しかけた。
「……ねえ、あの、このカード、彼が買った分も入ってるんじゃないの? そこで寝てる……」
 ひそひそ声でそう言って、ロンはちらっと紅梅の方を見た。
 紅梅の袖とドアが影になって、彼から弦一郎の顔は見えない。しかし着ているものが珍しい着物と袴であることや、投げ出された足の大きさ、そして何より“同い年の女の子の膝で堂々と寝ている”ということから、ロンは弦一郎を少し怖がっているようだった。

「ああ、まあ、そうだけど、構やしないよ。さっきも特別興味がありそうな感じじゃなかったし、起きたら俺から言っておくからさ」
 寝ている上、顔もようよう見えないのに誰かをびびらせている弦一郎に内心少し笑いつつも、精市が言う。ロンはそれに安心したのか、僅かに笑って、「そう、ありがとう」ともう一度礼を言った。

「それはそうと、さっきから後ろにいる君は誰? ミスター・ウィーズリーの友達?」
 清純が、橙色の頭をひょいと傾げ、一歩下がったような位置でこちらを伺っていた男の子を見る。
 ぼさっとした黒髪に丸い眼鏡をかけた男の子は、話しかけられて少し驚いたようだが、すぐに「あの」と口を開く。

「僕、ハリー・ポッター」
「ハリー・ポッター?」
 少年の名乗りに、精市が、目を丸くした。
「へえ、君があのハリー・ポッター!」
「あ、うん……」
 感心したような顔で詰め寄ってくる精市に、ハリーは仰け反った。

 それは自分が“ハリー・ポッター”であるということに対する皆のリアクションにそろそろ疲れてきたというのもあるし、詰め寄ってきた精市が、ちょっと信じられないほどきれいな男の子だったから、というのもある。
 セイイチ、という、ハリーにとってまったく聞き慣れない日本の名前を名乗った彼は、緩くウェーブした、男の子にしてはやや長めのつやつやした髪に、藍色の目をしていた。
 そしてその顔は、例えば天使とか、泉の精霊とか、神様の子供か何かではないのかというぐらい美しいのだ。

 ロンがハリーのコンパートメントに入ってきた時、彼は「どこもいっぱいだった」と言ったが、続けて、「いや、隣も一人だったけど、あんまり雰囲気がありすぎるんで、声をかけられなかった」とも言った。
 その時は意味がよくわからなかったが、おそらくその“雰囲気がありすぎる子”というのがこのセイイチ・ユキムラのことだろうか、とハリーは予想した。そして、それは当たっている。

「ふぅん、見た目は普通なんだね」
 君に比べりゃ誰だって“普通”の見た目だろう、という思いを、ハリーは飲み込んだ。

「ねえ、きみ、何が出来るの? 火とか吹ける?」
……は?

 あまりに突然で、そして突拍子もなさすぎる質問に、ハリーはぽかんとした。
 しかしそれはハリーだけでなく、ロンも、そして清純も同じであった。

「だって君、ヴォ、えーと、“例のあの人”とかなんとか言わなきゃいけない人を、どうにかしたんだろう? ゴジラみたいに口から火が吹けるとか、念じただけで息を止めるとか、そういうことが出来るのかと思ってさ」

 言っていることもとんでもないが、ハリーとロンは、彼が“例のあの人”の本名を平然と言いかけた上、いかにも「別に俺はどうでもいいけど、皆そう言ってるから」というような風に呼んだことにもぎょっとした。

「君のことを知って、俺、実はちょっと親近感を持ってたんだ。俺は火は吹けないけど、人の五感なら奪えるよ!」

 ──言っている意味がわからない。

 呆気にとられて目も口も真ん丸にしているハリーとロンに、精市は、こちらは単に何もかもよくわかっていなさそうな清純とともに、不思議そうに首を傾げた。



 少し話して、ハリーが火を吹いたり出来ないこと、どころか、自分がどうやって“例のあの人”をどうにかしたのかもよくわかっていないことを知った精市は、「ふぅん」と言って、小さく頷いた。

「そうなんだ。じゃあ普通の子なんだね」
「普通……」
 にっこり言った精市に、ハリーは少し新鮮な気持ちだった。

 叔父の家に居る頃は、悪い意味、もっと言えば惨めな意味で“普通”とは言い難く、そして魔法界に来てからは、また違う意味で“普通”とはかけ離れた扱いばかり受けてきたハリーである。
 だからこそ、普通、とあっさり言われたのは初めてで、そしてなんだか、不思議に肩の力が抜けるようだった。

 言った本人の精市が、見た目からして“普通”ではない、というのも、その言葉に異様な説得力をもたせている。神の子のように美しく、そして本人曰く人の五感までも奪えるような子に比べたら、誰だって“普通”に違いないからだ。
 だからなのか、さっきから捉えようによっては大変失礼で傍若無人な言動も、不思議と不愉快ではない。かといって愉快でもないが、自然と、「ユキムラだからなあ」というような、諦念というか、悟りにも似た気持ちになるのだ。

 そしてその精市は、「悪いんだけど、そっちのコンパートメントにお邪魔してもいい?」と、ハリーとロンにお願いした。
 曰く、「幼馴染が女の子の膝で爆睡してやがるので、居心地が悪い」らしい。

 笑顔だがどこか忌々しげに言った精市に、二人は頷いた。
 コンパートメントはちょうど二人分空いているし、こうして接してみて、精市も清純も人当たりのいい少年だということがわかったし、精市は既に元いたコンパートメントから完全に身体を出していて、ハリーのところに来る気満々の様子だ。

 それに、正直な所、彼の気持ちもわからなくはなかった。
 ハリーは、日本の民族衣装らしい、珍しいドレスのような服を着た人形のような女の子と、その子の膝に頭を乗せて寝ている少年が投げ出した足をガラス越しにちらっと見てから、精市と清純を、自分たちのコンパートメントに迎え入れたのだった。
ホグワーツ急行1/2//終