心に我儘なき時は愛敬失わず
(一)
弦ちゃんへ。

こんにちは。かわらずお元気でございますか。
テニス、楽しかったに、京都ではでけへんよって、ざんねんどす。

おばあはんからは、まだ、へたくそてばっかり言われます。
そやけど、おばあはんいがいのおひとにもお舞を見てもろて、良おないところをさがしたら、いくつか、直せるところがありおした。弦ちゃんの言うたとおりやった。ほんまにおおきに。

弦ちゃんも、剣道とテニス、どっちもたいへんやと思うけど、あんじょうおきばりやす。弦ちゃんはテニスも剣道もがんばってはって、上手で、本当にすごい。うちもがんばります。

また、お手紙書くえ。
京都はまだえらいあつうて、空気がゆらゆらしとります。テニスはお外でやりますよって、ねっしゃ病とか、気をつけてください。
佐和子おばあさまに、よろしくお伝えください。

紅梅より。
 薄い桃色の便箋に拙くも丁寧に書かれた文字を、やや頬を紅潮させた弦一郎は、じっと見つめた。

 決して長くはない文章を何度か繰り返して読むと、折り目どおりにたたみ、飾り気のない、白地に紫の裏紙がついた封筒に戻す。
 その封筒には、便箋と同じ筆跡で、神奈川のこの家の住所と、「真田弦一郎様」という宛名があった。
 漢字ばかりの住所は少し難易度が高かったのか、町名あたりからスペースが足りなくなり、急に文字が小さくなっている。

 裏返せば、送り主の名は、上杉 紅梅、とある。住所は京都。

 それは、ついこの間までこの家にいた、弦一郎と同い年の女の子の名前だった。
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以後、作中の京ことばで、ニュアンスが伝わりにくそうなものは『 * こんな感じです 』のマークをつけ、マウスポインタを当てると標準語の訳文が出るようになっています。
BY 餡子郎
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