弦ちゃんへ。
こんにちは。かわらずお元気でございますか。
テニス、楽しかったに、京都ではでけへんよって、ざんねんどす。
おばあはんからは、まだ、へたくそてばっかり言われます。
そやけど、おばあはんいがいのおひとにもお舞を見てもろて、良おないところをさがしたら、いくつか、直せるところがありおした。弦ちゃんの言うたとおりやった。ほんまにおおきに。
弦ちゃんも、剣道とテニス、どっちもたいへんやと思うけど、あんじょうおきばりやす。弦ちゃんはテニスも剣道もがんばってはって、上手で、本当にすごい。うちもがんばります。
また、お手紙書くえ。
京都はまだえらいあつうて、空気がゆらゆらしとります。テニスはお外でやりますよって、ねっしゃ病とか、気をつけてください。
佐和子おばあさまに、よろしくお伝えください。
紅梅より。
薄い桃色の便箋に拙くも丁寧に書かれた文字を、やや頬を紅潮させた弦一郎は、じっと見つめた。
決して長くはない文章を何度か繰り返して読むと、折り目どおりにたたみ、飾り気のない、白地に紫の裏紙がついた封筒に戻す。
その封筒には、便箋と同じ筆跡で、神奈川のこの家の住所と、「真田弦一郎様」という宛名があった。
漢字ばかりの住所は少し難易度が高かったのか、町名あたりからスペースが足りなくなり、急に文字が小さくなっている。
裏返せば、送り主の名は、
上杉 紅梅、とある。住所は京都。
それは、ついこの間までこの家にいた、弦一郎と同い年の女の子の名前だった。