#052
★シュテルンヒーローランドレポート★
5/10
「次はショッピングです! お土産やグッズを紹介しますよ!」
「今パレードやってっからな、店が空き気味の時を狙ったぜ〜。あ、大丈夫。パレードは午前と午後と夜にあって、夜が花火とか上がってそっちがメインだから」
ふたりが、『LEGEND HERO BAZAAR』と掲げてある巨大なアーケード前でそう解説する。
やはり昔のシュテルンビルトらしいヨーロッパ調のデザインで、そこかしこに、様々なヒーローの彫像が配置されていた。
「お土産やグッズを売っているお店は外にもたくさんありますが、世界最大、また全てのグッズが揃っているのがこちらのバザールです。シュテルンビルトの歴代全てのヒーローグッズが揃っているといっても過言ではない、とのことです」
「今日はヒーローランド限定グッズや、新商品をメインに紹介するぜ。全部紹介してたらマジで時間足りないし。あと、公式サイトで通販できるのもあるってよ。全部じゃないけど」
「お菓子、服、文具、おもちゃ、アクセサリー……といった感じで、品揃え別にお店が分かれています。アーケードになっているので、雨の日でもゆったり買い物ができますね」
「むしろ店が多すぎてどこから行けばいいんだか迷うんだけど……え? 案内人?」
「もう来てる? どこですか?」
ふたりがきょろきょろと辺りを見回すと、ふたりの後ろにあるミスター・レジェンドの彫像が──動いた。
「え?」
「後ろ? なんですか?」
ふたりが振り向くと止まるのだが、3度目に振り返った時にポーズが違っていたので、ライアンが「あっ」と声を上げる。
「──折紙サイクロン、見参でござる!」
「おおっ、折紙さん!」
「おー」
青白い光とともに現れたのは、名乗りの通りの折紙サイクロンだった。
撮影を見学していたギャラリーたちから、歓声と拍手が上がる。
「何、来てたの? 折紙が案内人?」
「実は割と前からいて、後ろで見切れていたでござるよ……」
「えっマジで。全然気づかなかった」
「私も気付きませんでした」
顔を見合わせるふたりに、折紙サイクロンは斜め下を向いた。全く表情がわからない彼であるが、顔が影になり、何やら非常に薄暗い雰囲気が醸し出される。
「そうですな。気付かれたら合流、ということだったんでござるが……あまりのおふたりのリア充ぶりに、正直混ざるのが気まずくなってきていたでござる……」
「なぜですか?」
首を傾げるアンジェラの頭に、ライアンが手を乗せた。
「えーそんなこと言うなよ、一緒に回ろうぜー」
「そうですよ、折紙さんがいればもっと楽しいですよ」
「リア充の優しさがつらい!」
ワッと顔を覆った折紙サイクロンに、頭にライアンの手を乗せられたままのアンジェラが、「りあじゅうとはなんですか?」ときょとんとした。
「えーと、よくわかんねえけど、折紙が案内してくれんの?」
「さようでござる。拙者既にヒーローランドは回ったでござるゆえ。特にグッズ関係はお任せあれ!」
朗々と言い、ドンと頼もしく胸を叩く折紙サイクロン。顔が見えない衣装であるためオーバーリアクションは必須、ということもあるだろうが、彼の素を知っているライアンは、やっぱヒーローモードだとキャラ違うな、と密かに感心した。
「へー、もう来てんだ。ヘリペリの招待券で?」
「それもありますが。本名で普通に応募して、プレオープンチケットもゲットしたでござる。よって拙者、来るのは既にこれで3回目でござる」
「どんだけだよ!」
「ネット抽選とハガキ抽選は落選したでござるが、電話抽選で当たったでござる!」
「ほんとヒーロー好きだよなお前……」
誇らしげに言う折紙サイクロンに、ライアンは感心と呆れが混じった声で言った。
「それはもう! よって、しっかり案内差し上げるでござるよ!」
「頼もしいですね、折紙さん」
こちらは、素直に感心した様子のアンジェラである。
「ではまず、ヒーローランドならでは! というところからいくでござる。すぐそこでござるが」
折紙サイクロンがそう言って示したのは、アーケードのいちばん最初、というよりはアーケードに入らなくても入口がすぐそこにある、また商品を店の外のワゴンにも並べて販売している店だった。
並んでいる商品は、大きめの飾りがついたカチューシャやぬいぐるみのような被り物、派手な帽子、髪飾りなどである。
「『ヒーローストリート・デイリーストア』! 各エリアでもたくさん売っているでござるが、皆がつけておられるカチューシャや帽子、サングラス、ポンチョなどは全部ここに揃っているでござる。マフラーや耳あてタイプもありますゆえ、これから寒くなってきて、防寒が足りない時に買うのもいいかもしれないでござるな。暑い日は逆にフードタオルなどがおすすめでござる」
「へー。せっかくだからなんか買おうぜ。俺サングラスにしよっかな」
「そういえばライアン殿、今日はサングラスがないでござるな」
「そうなんだよ。しっくり来なくてさあ」
いつも頭の上に乗せているサングラスがないライアンが、おどけて言う。
「お、ステルスソルジャーのやつ、シブいな。遮光タイプ」
「ステルスソルジャー殿のグッズは、ブランドとして既に一般販売されているでござるからな」
「知ってる知ってる、ちょっと年齢高めのビジネスマン向けのやつ。タイガーとかバイソンのおっさんが結構愛用してるぜ。あのぐらいの年じゃねーと似合わないのがちょっと悔しいよな」
「確かに。若すぎると似合わない格好良さでござる」
頷き合う彼らのあと、放送時には、ステルスソルジャーのブランドのシリーズの紹介が1分ほど流れた。
「しかし、今回はヒーローランドオープン記念ということで、若者でも似合うサングラスが発売されたでござるよ! 普段使いもできるシンプルでスタイリッシュな逸品! ただしそこそこお値段するでござるが」
「確かに普段でも全然イケるな。うーん、これはこれで買うか。今つけるやつは……、せっかくだから折紙センパイのにすっか。……似合う?」
ライアンは、折紙サイクロンの隈取をそのままフレームにしたサングラスを手に取り、頭の上に乗せた。アンジェラが「似合いますよ」と笑う。
「拙者でござるか!? こ、光栄でござるが!」
わたわたしながら、折紙サイクロンが背筋を伸ばす。
「デザイン面白いなこれ。えーっと、一部リーグのは、ブルーローズは髪留めタイプとカチューシャタイプ。キッドも同じ? あ、帽子もある」
「キッドの頭の飾り、小さくするとまたかわいいですね」
アンジェラがコメントする。本物のドラゴンキッドの頭の丸い飾りは顔より大きな平べったいパーツだが、グッズのものは直径5センチ程度の小さなものだ。頭につけると、熊の耳のようなシルエットになる。
「T&Bはキャップか。これなら普段使いでもいける感じ? シンプルだし」
ライアンが手に取ったのは、白と明るい緑、白と赤っぽいピンクのツートンデザインの2種類のキャップである。ワンポイントとして、サイドにシンボルマークの機械刺繍がそれぞれしてあった。
「バーナビー殿は、こういうのもあるでござるよ」
「何これカチューシャ? 耳あて? あー、スーツの耳のところのウサギパーツ!」
「バーナビー殿は女性ファンが多いゆえ、女性向けでござろうな」
「なるほどね」
次いで、他のヒーローたちの園内アクセサリーが紹介される。概ね、女性ヒーローはカチューシャか髪留め、男性ヒーローはサングラスか帽子という傾向だった。ただし、ファイヤーエンブレムはマントをモチーフにした髪留めがあり、しかも普段使いができると売れ行きが好調だった。
「お前もなんかつければ?」
「つけたいのですが、メットが……」
「ご安心召されよ! ポンチョなら大丈夫でござる!」
自前のメットがあるのでカチューシャや髪留めがつけられずしょんぼりするアンジェラに、折紙サイクロンがすかさずポンチョの売り場を示す。そこには、各々のヒーローの肩部分やマント、あるいはシンボルマークのパターンプリントなどの暖かそうなポンチョが各種並んでいた。
「フリース素材ゆえ軽くて暖かく、ボタンを外せば膝掛けにもなり、こうして畳んで留めればミニクッションにもなり申す!」
「へー、便利そうじゃん。オフィスでも使えそうだし」
折紙サイクロンがポンチョの3ウェイ活用を実演し、ライアンが感心する。
「そのとおり。オフィスでも使えますし、これからの季節、室内での防寒にもおすすめ!」
「おお、いいですね! これにします!」
喜色の篭った声を上げたアンジェラは、少し迷って、「暖かそうなので」とファイヤーエンブレムのマントを模したフリースポンチョを購入し、ヒーロースーツの上から羽織った。
「さーて、完全にハシャいだスタイルになったところで、行くか」
頭に派手な折紙サイクロンの隈取サングラスを乗せたライアンが言うと、首からライアンのチケット端末を下げ、ファイヤーエンブレムのマントポンチョを羽織ったアンジェラと、やはり首からドラゴンキッドのチケット端末、さらにタイガーのマフラーを巻いた折紙サイクロンが、揃って「いえーい」と拳を振り上げた。
「そういえば折紙さん、キッドのチケット端末なのですね」
「えっ、あっ、はい! 前回と前々回はスカイハイ殿とタイガー殿を選んだので! 今回はキッド殿を選んだでござる! 目指せ、コンプリート!」
「なるほど、さすがです」
あわあわと妙に早口で言う折紙サイクロンに、アンジェラはほのぼのと頷いている。
そうして3人は次々に店に足を運び、目玉商品をカメラの前で紹介していった。
「まずは『ザ・ヒーロールーム』! インテリア雑貨やキッチン用品などが主に揃い、自分の部屋をヒーロー仕様にコーディネートできるでござるよ!」
折紙サイクロンが、早速テンション高く紹介する。
壁掛け時計や目覚まし時計、マガジンラックにティッシュケース、ルームフレグランスやスタンドミラー。また置物や傘立て、小さめのダストボックス等々。インテリア雑貨という商品だけに、見本となる現品がコーディネート見本も兼ねて配置されていた。
「大物だと、ひとり掛けのソファとかもあるのか。ランプシェードもいいね」
ライアンが示した、ずらりと展示されたランプシェードにカメラが向けられる。わざと暗く囲いを作ったスペースでスイッチを入れると、ヒーローごとのデザインのマークやきらきらとした光が壁に広がる仕様になっていた。
「あっ、あちらのファイヤーエンブレムの、お化粧の、箱! とてもゴージャスです!」
赤に金ラメのグラデーションが入った華やかなメイクボックスを見て、アンジェラがはしゃぐ。「気合い入れて化粧しなきゃいけない感じだな」とライアンが言い、周りの者達から朗らかな笑い声が上がった。
「これは大人用だけど、ドラゴンキッドとかブルーローズのやつは子供用のラインが揃ってるな」
「キッド殿のシリーズはカラフルかつユニセックスなデザインでござるが、ブルーローズ殿のシリーズはいかにも女の子用でござるな」
折紙サイクロンの言う通り、ブルーローズのシリーズは明るめの青色に城のレースや雪の結晶モチーフ、またきらきらとしたビーズなどが多く使われている。アイテムも、装飾付きの楕円柄のミラーやベッドの上から吊り下げるベールなど、いかにもお姫様に憧れる女の子の心をくすぐるデザインのものが揃っていた。
また折紙サイクロンのインテリア雑貨は個性的な和風デザインで、タタミなどの独特な素材が使われていることもあってか、固定ファンがついているらしい。
「ウォールステッカーや壁紙などもばっちり揃っているでござるゆえ、トータルコーディネートすればまさにヒーロールームにできるでござるよ!」
そんな解説をしながらインテリア関係のスペースを抜けると、今度はまた様相の違う棚になっていく。
「で、こっちのほうはキッチンと、バス用品? ……おお、ロックバイソンのキッチンアイテムシリーズ、すげえ充実ぶり」
ライアンの言う通り、キッチン用品を大きな手に持ったロックバイソンの巨大なPOPが目立つコーナーには、彼のヒーロースーツを意識したデザインのキッチン用品が各種展示されている。
「クロノスフーズから出ている、大人気シリーズでござる。料理好きな男性も多いでござるからな。かくいう拙者も愛用者でござる。このサイバシなど長さと滑り止めが絶妙で、あとこの蒸し器とかめちゃくちゃ便利でござるよ。拙者のオススメでござる。最近は燻製作りセットが気になるでござる」
「マジで愛用してんなあ……」
折紙サイクロンの料理上手ぶりを知っているライアンは、呆れと感心が混ざったような声で言った。
「私はこの、マダム・ハングリーのシェイクボトルを買います!」
アンジェラが手に取った商品は、透明なプラスチックボトルだった。目盛りを邪魔しない程度に、マダム・ハングリーの象徴である華やかなドレスやきらびやかな舞踏会の仮面などが可愛らしくプリントされている。
「あー、プロテインとか振って混ぜられるやつ?」
「そのとおりです。デザインも素敵です。洗うのが簡単な作りになっているのもいいです」
「マダム・ハングリーのキッチンシリーズも人気でござるな。個人差ですが、男性はロックバイソン、女性はマダム・ハングリーという傾向があるでござる」
「あちらのほうはバス用品、お風呂で使うものが揃っていますね」
私はバスボムをいくつか買います、とアンジェラは女性ヒーローたちのシンボルマークの形になった、香りもそれぞれのイメージだというバスボムを幾つかかごに入れた。
「主に女性用のものが多いですが、小さい子のお風呂セットもかわいいですね」
「このへんは、お土産としてハズレなさそうだな」
「そうでござるな。袋タイプの入浴剤の詰め合わせなど、配り物に適しているかと」
所帯染みた、そして実用的な折紙サイクロンのアドバイスで、一旦カメラが引き上げられた。
「次は文房具関係が揃う、『シュテルンビルト・グリーティング』!」
「ステーショナリーだな。文房具っつーか」
先程とは打って変わって、ペンや消しゴム、ノート、メモ帳やポストカードなど、細々した商品が並ぶ店内。3人は浮足立つゲストたちに愛想を振りまきながら、店の商品をチェックしていった。
「ほとんどカジュアルな感じだけど、本格的な万年筆とかもあるな。お、これステルスソルジャーのやつ」
ライアンが、ジュエリーのようにガラスケースに陳列された高級ステーショナリーに言及する。
「ステルスソルジャー殿やファイヤーエンブレム殿のシリーズは、特に働く大人向けというか、例えば名刺入れなどのビジネス用品の展開も多いでござるな。仕事が成功するお守りとして持つのも良いかと」
「なるほどね。確かに姐さんのはご利益ありそうだな」
「あとは大人から子供まで使えるノートやメモ帳、ペン類などでござるな」
ポストイットやシールなどは色々使えるので、お土産にも良いかと、と折紙サイクロンの的確なアドバイスがまた飛び出した。
そんな時、アンジェラがふとコーナーの一角に近寄っていく。
透明のプラケースが細かくたくさん仕切られていて、それぞれの中に色とりどりの小さなパーツが、所狭しと入っている。
「これは何ですか? 小さいものがたくさん……」
「デコパーツでござるな! 専用の接着剤で色々なものをデコれるでござる。ヒーローパーツがたくさん揃っているので、推しのヒーローのオリジナルアイテムを作れるでござるよ! こちらはキャストの方が作成した、通信端末カバーのデコ見本。怒涛のスカイハイ推しでござるな」
「おお、素敵です!」
飾ってあったのは、スカイハイのイメージだろう空色の無地カバーに、これでもかとスカイハイのパーツと、彼を思わせる白い雲や虹、小鳥のパーツがセンスよく、しかしぎゅうぎゅうに貼り付けられたものだった。
「最近流行りのマスキングテープなどもたくさん揃っているでござるよ。女性が多いでござるが、男性ももちろん大歓迎。拙者の見切れパーツもございまする」
そう言って折紙サイクロンが摘んだのは、彼が壁の端からそっと顔を出しているようになる、とても彼らしいデザインのパーツだった。
「でこ……、やったことがないですが、楽しそうです」
興味を持ったらしいアンジェラは、接着剤やピンセットなどの基本セット──これももちろんSHLのロゴ入り──と、ヒーローデザインのパーツをひとつずつ、店員に頼んで揃えて貰った。
「本当はひとつずつじっくり選びたいのですが、今日はあまり時間がありませんので……。ライアンを見習って、大人買いです!」
「お前、こういうちまちましたもん好きだよなあ」
彼女が小さなピアスやバイクの小さいパーツなどを几帳面にきっちり並べて整理していること、またその作業が好きらしいことを知っているライアンは、しみじみと言った。
「また、ここで購入した文具やレターセット、ポストカードなどを使って、家族への手紙やヒーローへのファンレターを出すこともできるでござる」
そんな折紙サイクロンの解説とともに、実際に机に向かって手紙を書いているゲストの人々をカメラが撮影する。
「このように、手紙を書くためのスペースももちろん用意しているでござる。スタンプなども自由に使って頂けるので、各々思いを込めた手紙を書いてほしいでござる」
「あ、ここ経由のファンレター、届いたぜ。送ってくれた人、ありがとうな」
「私のところにも届きました! ありがとうございます!」
「拙者のところにも届いてるでござるよ!」
3人が、カメラに向かって笑顔で手を振った。
「続いては! 『ヒーロー・オブ・トイ』でござる!」
「うおおお、すっげえ品揃え!」
やってきたのは、すぐ隣の店。
天井に届く高さで、床と天井にがっちり固定された頑丈な棚にぎっしり展示されているのは、あらゆる種類のヒーローモチーフのおもちゃである。実際に手に取って遊んでみることができるよう、棚にワイヤーが固定されたサンプルもしっかり用意されていた。
「え、これ何? なりきりセット? 昔のヒーローのも全部あるのってすごくねえ!?」
ライアンが手に取った、装着見本のついた小さい子供用のなりきりコスチュームセットは、現在も定番である現役七大企業ヒーローの他、引退した昔のヒーローや、また二部リーグヒーローの何名かなど、渋い面子も揃っている。
「おっ、ボードゲームもある。事件解決ヒーローすごろく? こっちは何?」
「ライアン殿、意外なテンションでござるな」
様々なおもちゃのパッケージに夢中になっているライアンに、折紙サイクロンが声をかける。
「いや、俺けっこうこういうオモチャ好きなんだよ。実は」
「……もしや、子供の頃欲しかった物を今色々買って回るタイプ?」
「まさにそれ。大人になるっていいよな。大人買い大好き」
「わかるとしか言えないでござる」
「お前ならわかってくれると思ってたぜ」
ガシィッ、とかたく握手を交わすふたりの手には、それぞれいかにも男児が欲しがりそうな、かさばる銃のおもちゃや大きなボードゲームなどが抱えられていた。
「こちらは何でしょう?」
そんな中、アンジェラが棚の裏側に回り、ふたまわりも大きいパッケージを手に取った。
「そちらは大人用のなりきりセットでござる! ニーズに合わせたがゆえですな!」
「なるほど! 大人のおもちゃもあるのですね!」
「言い方な、言い方に気をつけような」
ライアンが、生暖かい表情で言う。アンジェラは、「言い方?」と首を傾げていた。
「え、えーと、そう! ヒーローはちびっこだけのものではないでござるよ! こちらのフィギュアなどは本格的でお値段もするでござるし、本当に大きなお友達向けでござるな」
わたわたと話を切り替えた折紙サイクロンの紹介したとおり、大きなガラスのディスプレイ棚には、ダイナミックなポーズを決めたオールド・ヒーローたちの本格的なフィギュアが飾られていた。
足元に小さく置いてある数字の桁も、そこそこに多い。大きめであるがゆえに非常に精巧な作りで、値段相応と納得できるクオリティだった。
「Mr.レジェンドやステルスソルジャーもありますね。タイガーが喜びそうです」
「うわ、これ絶対オッサンが大はしゃぎするやつだわ。目に見える」
「間違いないでござるな」
レジェンドを筆頭に、あの時代のヒーローのことになると少年そのものになるアラフォーヒーローについて、3人はうんうんと頷いた。
「手頃なところですと定番のソフビ人形、女の子にはブルーローズ殿の着せ替え人形などもあるでござる。あとボタンを押すと喋る人形や、ぬいぐるみなども」
「ぬいぐるみ! そうなのです、ぬいぐるみ! 実はヒーローランド限定で、私達のぬいぐるみが出たのです!」
折紙サイクロンの解説に乗っかって、アンジェラが挙手とともに発言した。それに伴って、待機していた店員がそのぬいぐるみの所に案内してくれる。
そこにあったのは、デフォルメされた金のライオンと白い犬のぬいぐるみだ。しかしそれぞれゴールデンライアンとホワイトアンジェラのヒーロースーツの特徴的なパーツを、部分的に装着している。
「そうそう、これな。見ての通り俺らそのまんまじゃなくて、動物になってんだけど」
「おお〜、しかし、ちゃんとおふたりだとわかるでござる」
「ライオンの顔はちゃんとライアンの顔に似ています。ほら!」
アンジェラがぬいぐるみを抱え、その顔をライアンの顔の横に持ってきた。
すると確かに、特徴的なラインの太めの眉や下睫毛の目立つ目元、また口角が上がった口元など、デフォルメされているというのにとても良く似ている。
こうして改めて本人と並べてみるとあまりに似ているので、折紙サイクロンを始め、店員やギャラリーがぐっと笑いを堪えた。
「た、確かに特徴を捉えているでござる」
「だろ〜。サンプル上がってきた時、似すぎてて自分で笑ったレベル」
皆が笑いをこらえている中、本人が真顔でそう言ったので、ついにどっと遠慮のない笑いが起きる。アンジェラは口元しか見えないはずのヒーロースーツでもありありとわかるほどにこにこしており、また彼女を模した白い犬のぬいぐるみも、口元はにっこりと笑っていた。
「しかし、もふもふで愛らしいでござるなあ」
「大きいサイズと、普通くらいの中サイズと、バッグなどにも着けられる小さいものがあります! 私は全て買いました」
「買ったのか」
興奮気味に商品を紹介するアンジェラに、ライアンが呆れ気味に言った。
「まだ届いていませんが。ベッドに置いたり、もたれてテレビを観たりするのです!」
「あー、大きいのはちょっと硬めでしっかりしてるんで、ちょっともたれるぐらいならできるぜ。こいつみたいに、クッション代わりに使うのもいいかもな。中ぐらいのはかなりふわふわだから、抱きまくらとかにするならこっちがおすすめ」
ライアンがカメラに向かって説明した通り、見本が置かれたスペースでは、大きなぬいぐるみにもたれかかってみたりしている人がいる。小さい子供なら、跨ることもできるサイズ感だ。
「あと珍しいところですと、色々な防犯グッズもこちらに揃っているでござる」
最後に、折紙サイクロンが少し雰囲気の違う一角を紹介した。
彼の言う通り、防犯ブザーやGPSなどを始めとした様々な防犯グッズが揃っている。どれもヒーローのイラストやロゴが入っていて、それだけでも頼もしさがある。
「ヒーローたちが防犯グッズになって、皆さんを守るでござるよ!」
「防犯グッズは七大企業各社から出てるけど、ここのはまたオリジナルのもあるんだな」
「さようでござる。いかにも防犯グッズという感じですと身に付けるのに構えてしまうかもしれないでござるが、好きなヒーローのグッズだと思って持って頂ければ、というコンセプトでござる」
「いいことですね。特に女性や子供は持っておいたほうがいいと思います」
アンジェラが、真剣な様子で頷く。
「そうだな。何を持ったらいいのかわかんねえ時は、専門のスタッフが相談に乗ってくれるぜ。気軽に話してくれ」
ライアンが紹介し、防犯グッズが並んだカウンターの所に立っている、他の店員とは少し毛色の違う、しかし話しかけやすそうなスタッフたちが小さく頭を下げた。
「活躍の機会がないのが何よりではござるが、もしもの時のためにぜひおひとつ」
折紙サイクロンが締め、おもちゃの取材は終了となった。
「さて参りました! 続いては『シュテルンセンターファッション』!」
「服がたくさんあります!」
壁のすべてにハンガーラックが設置され所狭しと服が掛けられている様に、アンジェラが歓声を上げる。壁のハンガーラックには主に上着やTシャツなどのトップスがかけられていて、店の中央の方には帽子や傘、ルームウェアなどが棚に収められているようだった。
「ヒーローモチーフの衣類が揃うアパレル店舗でござる。Tシャツやパーカー、帽子あたりはこの場で身に着けてパークを回ることもできるでござるよ」
「ルームウェアやパジャマもたくさんあります。小さい子のものは、ヒーロースーツのデザインそのままになっていてとてもかわいいです!」
アンジェラが示した子供サイズのマネキンは、両手を上にまっすぐ伸ばしたお馴染みのポーズをとって、スカイハイデザインのルームウェアを纏っている。
スカイハイを模したルームウェアは、下はワンポイント入りのスパッツ、上はチュニックのように長く、被ったフードには、本物よりも短い、布製の例のアンテナのようなツノがちょこんと飛び出ていた。背中には、ちゃんとジェットパックのプリントがある。
「部屋着にはいいアイテムが揃ってんな。このパーカーとかいい生地使ってるし、着心地いいやつだぜ。全体的に縫製もしっかりしてるし」
「服にうるさいライアン殿のお墨付きが出ましたぞ!」
折紙サイクロンが声を上げると、周りの客たちからくすくすと笑い声が上がった。
「こっちの下着とかも、子供は喜ぶんじゃねえの?」
続いて、ライアンがビニールのパッケージにパウチされた、かなりカラフルな図柄のキッズ下着を紹介する。
「プリント下着は確かに人気でござる。あちらには大人用も。……えーと、ライアン殿、いかがでござるか」
「いやいやこれはさすがに! これなんか履いたらタイガーの顔が股間に来るじゃねーか! しかもサムズアップしてるし!」
ライアンが、言うとおりの絵柄のトランクスを指して言う。
「スカイハイさんのものも、股間でばんざいをしている柄でござる……」
「だからなんで全部中央に持ってくるんだよ」
「ウ、ウケは狙えると思うでござる」
「出オチじゃねーか!」
ライアンの突っ込みがキレよく入ったところで、他の目玉アイテムを紹介しながら、この店の取材が終了する。
アンジェラはファイヤーエンブレムのルームウェアと、「コンビニに行く時に羽織れる」ということで二部リーグヒーローの総柄パーカー、そしてこっそりボクサータイプの女性用下着を数枚購入した。ちなみに、女性用下着はシンボルマークのさりげないパターン柄であった。
「次はアパレル系と縁続きという感じでござるが、アクセサリーや時計などの『シュテルンズ・ジュエリー&ウォッチ』でござる」
「女性用が多いですね」
アンジェラが言った。壁いちめんに設置されたたくさんのフックにぶら下がるきらきらしたアクセサリー類は、確かに女性用のものばかりだ。
「アクセサリーでござるゆえ、そこはどうしても。しかしこちらの一角には男性でも着けられるネックレスや指輪、ブレスレットなどがあるでござるよ」
「だいたいシルバーだな。シンボルマークデザインのやつが定番っぽい」
ライアンが、実際にブレスレットをひとつ手に取って自分の手首に着け、カメラの前に持ってくる。
「あとはミサンガ、シリコン製のアームバンドなどはヒーローデザインが目立ちますし性別も選ばないでござる。その場で着けて回るのもオススメ。暑い日などはタオル生地のリストバンドもよろしいかと」
「このミサンガ、ちゃんとテーマカラーで編んであるし、小さいチャームがついてるのがいい感じだな。あ、これ人気アイテム? だろうな、出来いいぜこれ」
店員がこっそり伝えてきた情報を、ライアンがすかさず現物のミサンガを手にして説明し、カメラの前で画を作る。
その他、腕時計はお手頃価格のものから、ガラスケースに入った高級ラインまで揃っているということを紹介しながら、カメラが店内を撮影する。
「あっ、ピアス! ピアスがあります! ひとつずつ欲しいです!」
その時、ヒーローのマスク部分やシンボルマーク、あるいはモチーフデザインのピアスがずらりと並んだ一角を発見したアンジェラが、弾んだ声を出してそのコーナーに向かっていく。
「お前のコレクションケース、もう結構いっぱいじゃなかったっけ」
「はい。ヒーローグッズのものは別にケースを用意するつもりです!」
そう言いつつ、彼女は店員に手伝ってもらいながら、ヒーローモチーフのピアスを全種ひとつずつ買い求めたのだった。
「続いては、少し趣向を変えまして……」
「本屋? ディスクもあるな」
ライアンが、店内を見回して言う。今までと違い、本棚にたくさんの書籍が収められていた。そして半分くらいのスペースは、音楽ディスクを視聴するためのヘッドホン付きの端末や、また映像が流れているモニターなどが設置されている。
「ヒーロー関連の書籍や写真集、音楽ディスク・映像ディスクなどが全て揃えられている、『ギャラリー・オブ・レジェンド』でござる」
「へえ〜。引退ヒーローのエッセイとか、自己啓発本なんかも置いてるな」
「先輩ヒーローのお言葉は非常に勉強になるでござるよ。拙者もひと通り拝読させていただいたでござる」
「あ、ジュニア君の写真集。……なあ、この水着」
「それは言及しないで差し上げてほしいでござる」
「前から思ってたんだけど、妹が小さい時に履いてた毛糸のパンツと色合いがそっくり」
「やめてあげてほしいでござる!!」
バーナビーの写真集を手に真顔でコメントするライアンに、折紙サイクロンは悲痛な声で言った。
「ライアン! ライアンの写真集があります!」
「おー? 俺のも置いてくれてんの? サンキュー」
テンション高く本棚を指さしているアンジェラに、ライアンが悠々と近寄っていく。
「写真集? ライアン殿、写真集を出していたでござるか?」
「いや、俺が被写体じゃなくて。俺が撮った写真の写真集」
「カメラマンとしての写真集でござるか!?」
知らなかったらしい折紙サイクロンは、驚きとともに、アンジェラが手にしている写真集を覗き込んだ。
写真は主に風景が多いが、世界中を旅するさすらいの重力王子、という彼の二つ名にふさわしく、色々な場所の多彩な写真が収められている。現地の人々のいきいきとした笑顔の写真もちらほらとあって、彼が旅先で様々な人たちと良いコミュニケーションをしているだろうことがありありと分かるものばかりだった。
「どれもいい写真でござるなあ。といいますか、写真が趣味というのは存じておりましたが、これもう普通にプロではござらんか」
「趣味が高じて、って感じ」
「なるほど」
「あ、曲のディスクも全部置いてくれてる。バンド組んでたやつも」
「多才でござるなあ……」
心から、という様子で感心する折紙サイクロン。その隣では、なぜかアンジェラがこれでもかと誇らしげな顔をしていた。
ライアンが展示用として写真集3冊にサインを入れて、この店の取材は終了となった。
★シュテルンヒーローランドレポート★
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