#051
★シュテルンヒーローランドレポート★
4/10
「さーて、お勉強タイム終了」
「次はどこに行きますか?」
 大きく伸びをするライアンの横で、アンジェラが首を傾げる。
「うーん、ブルーローズのショーの時間もまだだしな。ゆったりしたの……あ、列車。姐さんの乗ろうぜ。ぐるっと周るやつ」
「ああ! ファイヤーエンブレムの! 列車!」
 たった今列車に乗りたいと言っていたところで、そしてファイヤーエンブレムの大ファンでもあるアンジェラは、ぱっと喜色を浮かべて、子供のように挙手した。
「はい! 乗りたいです! 乗りましょう!」
「よし、行くぜー」

 ふたりがやってきたのは、階段を登った中空に作られた、真っ赤な色のステーションである。それなりに人が並んでいたがそこまで混みいっているというわけでもなかったため、ふたりはおとなしく一般列に並んだ。
「えーっと、並んでる間にアトラクション解説する?」
「了解です。……『エレガント・ファイヤー・レールウェイ』は、パーク内を優雅に移動、また観覧ができる空中列車です。ファイヤーエンブレムのきらきらした衣装をモチーフにした列車がゆったり走ります。内装もゴージャス。内側の座席ならパーク内、外側なら海やシュテルンビルト市街を遠く眺めることができます」
「走ってる時は、姐さんのトークが流れてるんだっけ?」
「はい、そのようです。景色に合わせてお話してくださるそうですよ」
「へえ」
「私、ファイヤーエンブレムの声や喋り方が大好きなのです。聞いていると落ち着きます」
「トークも上手いしな。ラジオが長く続いてるのわかるぜ」

 そんなふうに解説映像を撮ったり、周りの一般人にファンサービスをしたりしていると、あっという間に順番が回ってきた。
 ファイヤーエンブレムのマントと同じ特殊な遊色加工がされた美しい列車は、内部もゴージャスだった。座席というよりはソファといったほうが相応しい、座り心地の良さそうな座席が並び、小さめのシャンデリアが、優しいオレンジ色の光を放っている。
「内側に乗りますか? それとも外側? ……あ、いいのですか?」
「え、特等席じゃん。やったね」
 内側でも外側でもない、両方が楽しめる、先頭の、所謂お誕生日席とも言える席。そこに案内されたふたりは、片やそろそろと、片や堂々と座席に腰掛けた。

「むぅ、しかし何だか申し訳ないですね」
《ハァ〜イ、みんなアタシのゴージャスな列車の旅にようこそ》
 その時スピーカーから、ファイヤーエンブレムのなめらかな声が響いた。
《不公平ってわけじゃないんだけど、内側と外側で、見える景色がだいぶ違うの。まあどっちも素敵な景色だってことは保証するわ。だからこそ、両方が楽しめる特別席は、できればお誕生日とか結婚記念日とか、特別メモリアルな人に譲ってあげてね。アタシからのお・ね・が・い》
「だそうですよ」
 アンジェラが言うが、映像的に、この特別席は譲れないらしい。事前に許可をとっている、というスタッフであるが、アンジェラはまだ納得がいかないようだった。

「しかし……」
「うーん、まあ、撮影なんてみんなの知ったこっちゃねえしなあ。……じゃあチビッコ! 小さい子は膝に乗せてもいいんだろ? ほら、ちょうどバースデーシール貼ってる子もいるし」
 ライアンが折衷案を出す。キャストに確認すると、クラシカルな駅員風の紅い制服を着た女性は、笑顔で肯定した。
「ああ、それはいいですね。ええと、預からせていただける方。ワォ、私の格好! あっ、結婚記念日! おめでとうございます!」
「よーし来い来い、俺様の膝の上なんか、超特等席だぜー。Happy Birthday!」
 ぜひ、と我が子を差し出す親子連れ2組から、ライアンはドラゴンキッドの帽子にバースデーシールを貼り付けた、やんちゃそうな男の子。アンジェラは両親が結婚記念日シールを貼っている、柔らかい素材で出来たホワイトアンジェラのコスプレ衣装を着てがちがちに緊張している小さな女の子をそれぞれ抱き上げ、膝に座らせた。



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【VTR】

「ファ〜イ、ヤァ〜ン! ハロー、ファイヤーエンブレムよん。
 まさかアタシがテーマパークのアトラクションになるとはね。嬉しいわ〜!
 でも、アタシのはいかにもアトラクションって感じじゃないの。昔のシュテルンビルトを再現した町並みや、帆船の浮かぶ海、遠く見える本物のシュテルンビルトの素敵な景色を眺めながら、ふかふかのゴージャスなソファの列車でエレガントに巡るのよ。激しいアトラクションで疲れたり、まったり景色を眺めたい時に最適!
 アタシのマントと同じ炎の遊色の列車は、走っている所を夜見るのも綺麗でおすすめ。乗っても美しい、見ても美しい、眺める景色も美しい、パーフェクトでしょ? うふ。
 退屈しないように、車内ではアタシのトークが流れるようになってるわ。時間別で何種類か収録したから、良かったらお喋りに付き合ってちょうだいね。
 それとコラボメニューの紹介、ふたりともよろしくねん!」

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「あっという間でしたね」

 敷地を半周程度して、もうひとつの駅で降りたアンジェラが言った。
「これも何回も乗りたい系だな。景色見ようと思ったら姐さんのトークが面白くてさあ」
「上りと下りがありますし、トークも何種類かあるそうです」
「いいね。移動がてら休めるし、楽しいし。チビッコのパワーに疲れたパパママの休息にもなるんじゃねえかな」
「パワフルでしたね。可愛かったですが」
 アンジェラとライアン、それぞれの膝の上という特等席に座ることになった子供ふたりは始終大興奮だった。ホワイトアンジェラの大ファンだという女の子は景色よりもアンジェラばかりを見ていたが、男の子の方は常に体をそわそわと動かしていた。座席のベルトがなければ、絶対に座席から飛び降りて、窓に張り付いていたことだろう。
 男の子は最高の誕生日プレゼントとなり、また女の子は大好きなホワイトアンジェラと一緒に過ごせた上、両親の結婚記念日の思い出にもなったと、全員が満面の笑みだった。

 子供ふたりは最後にハグとサインを貰い、それぞれ家族ごと写真を撮ってから、頬を真っ赤にして、ずっと手を振っていた。
「前から思っていましたが、ライアン、子供の相手に慣れていますね」
「そう?」
 ライアンが膝に座らせていたやんちゃな男の子は、興奮して大声を上げそうになるとライアンがそっと何か言い聞かせ、その度に目をきらきらさせて良い子に座っていた。その良い子っぷりは、彼の両親が「こんなに良い子で10分も椅子に座っていられるなんて!」と感動していたほどだった。
「まあ、ヒーローだからな。チビッコの相手は任せろ」
「さすがですライアン!」
「俺のブーツにキスをしな!」
「キスをしな!」
 そんなことを言いながら、ふたりはファイヤーエンブレムのコラボフードの売り場にやってきた。

「すみません、全部1種類ずつください」
 これまでどおりの注文を済ませ、トレイに乗ったフードを、ふたりは近くにあったテーブルまで運んだ。ロックバイソンのところでもテーブル席の用意はあったが、無骨でどっしりしたデザインのそれと違い、こちらは優雅かつシンプルなデザインの、パラソルがついた椅子とテーブルが並べられていた。

「お、ドリンクメニュー初めてだな」
「綺麗ですねえ」
 ふたりの声とともにカメラにおさめられたのは、ファイヤーエンブレムのマント、すなわち炎の色にも似たグラデーションの層になっている、透明カップのドリンクだった。
「えーっと、下からグレナデン・シロップ、オレンジジュース、パイナップルジュース、レモンジュース、ジンジャーエールだって。ノンアルコールカクテルだな」
「混ぜてもいいですか? ……あ、おいしい」
「俺もちょーだい。おー、口の中さっぱりすんな。しつこくなくていい感じ」
 同じストローでドリンクを回し飲みしたふたりは、次いで、フードのほうにカメラを誘導した。

「ファイヤーデニッシュ、です。3種類ありますよ」

 子供の手のひらぐらいの大きさの、炎の形をしたデニッシュ。真ん中がハートの形にくぼんでいて、そこにラズベリージャム、タンドリーチキンハンバーグ、カボチャペーストがそれぞれ詰められている。
「オシャレでかわいいです。どれも赤やオレンジですね」
「うまそう〜。甘いのだけじゃないのがいいな」
 ライアンがデニッシュを割り、片方を口に入れた。彼の大きな口では、ほとんどひと口に近いような、ふた口の咀嚼。次いで、アンジェラも何口かで残りを腹に収める。
「お、イケる。甘いラズベリーと、スパイシーなチキンと、中間のカボチャっていうチョイスがいいバランス。でも小さいんで、オヤツだな」
「そうですね。ドリンクも甘いですし、食事というよりは休憩向けですね」
 まさに、ぺろり、とそのおやつを平らげたふたりは、トレイやカップの後始末をして、ファイヤーエンブレムのエリアを離れた。






 そろそろブルーローズのアトラクションに、とスタッフに言われ、ふたりは目的地に向かった。

「ワォ、氷のお城! とても綺麗。素敵です」
 アンジェラが、感嘆の声を上げる。上に細く尖るようなシルエットの、クリスタル素材をふんだんに使った氷の城が、昼の陽気を取り込み反射して、きらきらと輝いていた。
「下の方は薔薇だぜ。まさにブルーローズって感じで、ひと目でわかるな〜。女の子は好きだろこういうの。ほら」
 ライアンが示した先には、ブルーローズのコスプレや、ブルーローズ・カラーのドレスを着た小さな女の子たちが、期待いっぱいの顔をして、両親とともに列に並んでいた。

「かわいい! 子供たちがヒーローの格好をするの、本当にかわいいですね! あ、ここ、撮影スポットなのですか?」
 アンジェラが覗き込んだ城の裏手には、記念写真を撮るためのステージが設置してあった。そこで子供たちが、ヒーローになりきった決めポーズをしたり、もしくははにかみながら立ち、保護者に写真を撮られている。
 今までは取材をしなかったが、実は各アトラクションの近くにはそのアトラクションの題材になっているヒーローの撮影用ミニステージがあり、それ以外でも様々な撮影ステージが各所に設置してある、とテロップが入った。

「あ、コスプレ規定の紹介? えーっと、ヒーローの全身フル装備のコスプレは12歳まで……だってよ」
「私のようなのはアウトですよ、皆さん」
 ライアンの視線を向けたネタ振りに、ヒーロースーツ姿のアンジェラは、真面目な声で応えた。スタッフや、撮影を見学していた周囲の人々から笑い声が上がる。
「大人は中で売ってる帽子とかカチューシャとか、そーゆーので楽しんで。ハロウィンになったらOKになる? まだ未定?」
「あっライアン、あちらにライアンの格好の子が!」
「マジ? え、あれすっげえな!? 売ってるやつじゃねえぞ」
「すごいです! 素敵です!」
「あ、ベビーカーに寝てるほう、お前の格好じゃない? やっぱ手作り? すげー! 声かけていい?」
 スタッフからOKが出るや否や、ふたりはライアンの格好をしている男の子に話しかけた。本人はもちろん両親もかなり驚いていたが、最高のサプライズと幸運にすぐに笑顔になった。

 ゴールデンライアンの大ファンだという少年は、父親と色々試行錯誤を繰り返して、ヘッド部分と肩周りや羽根など、部分的ではあるが本格的なゴールデンライアンのスーツを作成。今回のSHLプレオープンチケット当選に合わせて完成させ、今日いよいよ装着してきたそうだ。
 そしてそれに合わせて、まだベビーカーが欠かせない小さな妹にも、こちらは裁縫が得意な母親がホワイトアンジェラの衣装を作って着せたようだ。といっても、こちらはまだお座りも出来るかどうかという乳児なので、何もわかってはいなさそうだったが。
「すげーな、そのまんまだわ。ほらここの羽根のところとか完璧! うおーすげえ、ちゃんと畳める! このままアトラクション乗れるようにしてんのか。腕のギミックもあんの!? あっ動いた、すっげえ!」
 本人から“完璧”のお墨付き、さらに具体的な絶賛も貰った彼らは、とても嬉しそうだった。装着している男の子は誇らしげな顔をし、衣装を作った父親は渾身のガッツポーズをしている。

「私のものも、赤ちゃん用に上手く作ってあります!」
 まだ首がすわった程度の乳児に窮屈な衣装を着せるわけにもいかないからだろう、服自体は普通のロンパースだ。しかしホワイトアンジェラのヒーロースーツらしいラインが入れられていたり、ヘッドパーツは尖った犬耳と青いクリスタルの飾りのついた柔らかいフードになっていたりして、上手く作ってある。よだれかけには、ホワイトアンジェラのロゴがアップリケされていた。
 こちらも、製作者の母親が褒められて嬉しそうににこにこしている。
「とてもかわいいです!」
「かわいいけど、ちょっとクリオネっぽい」
「くりおね?」
 ライアンのコメントにアンジェラが首を傾げるが、確かに、柔らかい生地でゆったりめに作られた衣装はところどころ余っていて、流氷の天使とも言われる小さな生き物のシルエットによく似ていた。
「本当に、とてもよく出来ています。スローンズ・モードですね」
「ベビーカーな?」
 ライアンが、見たままの突っ込みを入れる。しかしベビーカーも、エンジェルチェイサーを模してか白い日よけがかけられていて本当に凝っている。
 アンジェラがベビーカーの取っ手を持ち、「エンジェルライディングです! ウォオオオオン!!」とエンジン音の口真似をしながらベビーカーをゆっくり前後に動かすと、赤ちゃんが「うー!」とご機嫌な声を上げた。

「あ、サイン? もちろんいいぜ。羽んとこにドッドーンと書いとこう」
「私も? いいのですか? ああ、かわいいですねえ」
 そんなやりとりをカメラに収めつつ、最後にそれぞれ子供を抱っこした写真を撮って、ふたりは小さなR&Aファミリーと別れた。



「はい、というわけで来たぜ! ブルーローズのアトラクション!」
「『ブルーローズ・アイスファンタジー』です。実際のダンサーを交えて、3Dホログラムのブルーローズが氷や雪のエフェクトとともに歌って踊ったりするそうです!」
「映像と音楽を楽しむシアターアトラクション、っていうよりは、ショーだな。……で! この並び様な訳だけど!」
 ライアンの声とともに、カメラが動き、ブルーローズのショーに並ぶ人々の長蛇の列を映す。
「スカイハイはもうファストパスがなくなったそうですが、ブルーローズももうなくなりそうとのことです」
「大人気だな。でも俺らもこれに並んでたら時間なくなっちゃうんでえ、じゃーん」
 ライアンとアンジェラがカメラの前に出したのは、ファストパスだった。しかし、よく見ると若干デザインが違う。

「スペシャルファストパス! フツー、ファストパスは俺達が今までやったみたいに入場してから取るんだけど、事前に手に入れられるファストパスもあるんだぜ。今回、プレオープンの入場チケットにはもれなく1枚ずつプレゼント!」
「ただし、どのアトラクションのファストパスが当たるかはわかりませんし、時間も選べません。私たちはこの時間のブルーローズが当たりました!」
「あとは、株主優待とか、提携ホテルに宿泊したりすると、アトラクション指定なしのフリーファストパスが1枚貰えるぜ」
「誕生日や、結婚記念日などの記念日来場でも貰えます。その時は記念日来場のバッジが貰えて、それをつけていれば、アトラクションで好きな席を優先的に選ばせていただけたりなどの優待が受けられます」
「さっき姐さんも言ってたやつだな。メモリアルな人優先ってやつ」
「それです。ただし、チケット予約の際は来園日前後20日が記念日であるという証明書の添付が必要です。不正は出来ませんよ」
 詳しくはシュテルンヒーローランドの公式サイトで、とアンジェラが締めくくり、放映時には、公式サイトのURLがテロップで表示された。

《私の氷はちょっぴりコールド。あなたの来場を完全ホールド! ──ブルーローズよ。もうすぐ私のショーが始まるわ。ファストパスを持ってる人は、そろそろ私のお城に入りなさい。遅刻したら入れてあげないわよ!》
「お、もうすぐ始まるみたいだぜ」
「行きましょう」



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【VTR】

「──私の氷はちょっぴりコールド。あなたの悪事を完全ホールド!
 みんな、良い子にしてる? ブルーローズよ。ヒーローランドオープン、おめでとう! 私がアトラクションになるって、凄いわよね。でも嬉しいわ!
 私のは『ブルーローズ・アイスファンタジー』っていって、簡単なストーリー仕立てで、私がダンサーの人たちや、3Dホログラムのキャラクターと歌ったり踊ったりするの。小さな子供から大人まで楽しめる、エンターテイメントなステージショーよ。
 録画のホログラムだから味気ないかも、なんて思ったら大間違い! ものすごく凝った作りになってて、びっくりすると思うわ。フフ!
 今のところステージの内容は1種類だけど、季節やイベントに合わせて変えていこうって話も出てるから、楽しみにしてて!
 コラボフードは、見た目からして心ときめく、素敵なスイーツよ。女性はぜひ試してね。カップルで分けあって食べてもロマンティックでいいかもね。
 あのふたり、どうせまた分けあって食べてるんでしょ? あれで付き合ってないって信じらんない。
 まあいいけどね。楽しんで!」

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「すごかったです……!」

 他の観客たちと一緒にぞろぞろと氷の城から出てきたアンジェラは、興奮のこもった声で言った。他の一般客たちも、夢見るような、ふわふわしたような、それでいて興奮冷めやらぬというような様子で、同行者たちとステージについて話しているのが見えた。

「確かにすげえ。このショーだけで個別に金取っていいレベル」
 ライアンも、真面目な顔で頷いた。
「本当に! 歌やダンスも素晴らしいのですが、ブルーローズが、ホログラムではなく、そこにいるような様子で……!」
「あれ、どうなってんだろうな……? あ、ここだけネタバレOK? えっとな、歌とかダンスとか脚本進行が基本なんだけど、途中でブルーローズが観客に話しかけるシーンがあんだよ。で、話しかけるだけかと思ったらさあ、ちゃんと会話が成立すんの。っていうかフツーに本人が話してるのと同じ!」
「本当にびっくりしました! そこの3番目の座席の赤いセーターの人、とか、名前を訪ねてきてそれに答えると、そう何々っていうの、とかちゃんと名前を言うのです。何がどうなっているのでしょう……」
「アンドロイドじゃなかったしなー。パターン撮るにしたって限度があるし。ボイスチェンジャーにしたって似すぎだし……」
 芸能活動歴が長く、舞台装置やステージ技術に興味があるらしいライアンがぶつぶつ言うと、アンジェラが彼の脇腹を肘で軽くつつく。
「ライアン、だめですよ。夢のないことを言っては」
「おお、悪い悪い。そーだな、あれは本物のブルーローズってことで!」
「そうですとも。皆さん、ヒーローランドに来れば、いつでもブルーローズに会えますよ!」
 上手くシメたアンジェラに、周りから笑顔とともに拍手が起こった。



「コラボフード、すごい! 綺麗! とてもオシャレですね!」
「いいね。映える系はまず見た目からテンション上がるよな」

 やはり氷と薔薇をモチーフにした、ロマンティックで華奢なデザインのテーブルと椅子。置かれているのは、透明なデザインプラカップに入ったプチパフェと、温かいお茶だった。
 パフェのメインになっているソフトクリームはほんのりと薄い青色で着色されたバニラフレーバーで、薔薇の形に絞り出されている。雪を模してか、ホワイトチョココーティングのコーンフレークが下に入っていて、Blue Rose、と焼き印が押された、薔薇の葉の形のビスケットがサイドに差し込まれていた。

「食べるのがもったいないほど綺麗ですね。んー、おいしいです」
「紅茶はローズヒップティーだって。……すっぱ! あー、でもすげー健康とか美容にいいんだっけ?」
「ファイヤーエンブレムも飲んでいました。私も飲んだことがありますが、お茶ではなくジュースか、レモンティーのようなものだと思えばおいしいですよ」
「なるほど、そう思えばレモンとかアセロラっぽい。夏に、冷たいのなら飲みやすいか……? あ、俺にもパフェちょうだい」
「下のホワイトチョコレートのコーンフレークと一緒に食べると美味しいです。あーん」
 その言葉通り、コーンフレークとソフトクリームを一緒に乗せたスプーンをアンジェラが差し出すと、ライアンはそれにぱくりと食いついた。そして彼の口から抜き出したスプーンで、アンジェラがまたパフェを食べ始める。
「ホントだ、このチョコのコーンフレーク美味い」
「しかし、やはり量が少ないです……」
 あっという間に空になったカップを残念そうに見つめたアンジェラは、ライアンの口にあまり合わなかったらしいローズヒップティーを、一気に飲み干した。
その頃のシュテルンちゃんねる:#050〜051
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BY 餡子郎
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