#045
★スペシャルエステ★
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 シュテルンビルト・アスクレピオス総合病院。
 今ここに、一部リーグヒーロー全員が集められていた。

「ヒーロー免許の次は体力測定。で、次はなんだって?」

 次から次へと、あー疲れた、とぼやいた虎徹は、ごきごきと肩を鳴らした。
 怒涛のヒーロー免許更新が終わってそう日も経たないうち、再度集められたヒーローたちは、今度は体力測定、もとい運動能力測定をやらされたのだ。50m走や握力測定、反復横跳びやベンチプレス、ハンドボール投げ、立ち幅跳びに高飛び、持久走、ハードル走、跳び箱、上体起こし、長座体前屈、20mシャトルラン。
 通常学校などでも用いられるそれをハードにしたようなそのメニューを、ヒーローたちは概ね順調にこなした。種目によっては、誰が一番記録を出すか競うという遊びまで交えながら行う様は、カリーナが「男子高校生のノリだわ……」とぼやくほどだった。
「シャトルランとか上体起こしとか、みんなバカみたいにやってたわね」
「あれでムキにならねえ男はいねえって」
「んもう、いつまでたってもコドモなんだから」
 口を尖らせた虎徹の頬を、ネイサンがつんとつついた。

「バーナビーさん、走るの速いねー! いっかいも追いつけなかった!」
「ふふふ、キッドもなかなかだったじゃないですか。それにリーチが違いますからね」
「そうだね。うー、早くもっと背が伸びないかなあ!」
 バーナビーの長い脚を羨ましそうに見ながら、パオリンが地団駄を踏む。
「それはそうと、ライアンは割と遅いんですね」
「うるせえなあ」
 ぼやくライアンは、走ったり跳んだりすることにおいてはこのメンバーの中で中の下くらいの順位である。ややがさつな性格がおおいに出て、ハードルを殆ど倒して走る姿は戦車のような様相だった、とバーナビーはくすくす笑う。
「でもライアンさん、ハンドボール投げはイチバンでしょ? ベンチプレスも!」
「くっ、ベンチプレス……1位になれると思ったのに」
 若さに負けた、と悔しがるのは、筋力自慢のアントニオである。
「まあな。それよっか、俺は折紙の身体能力の凄さにびびったんだけど」
 ちらり、とライアンがイワンを見ると、イワンは「へあ!?」と変な声を出して飛び上がった。

「ハードル走、1位だろ。しかもいっこも倒してねえしさあ」
「そーなんだよ! 折紙さんは凄いんだよー!」
「そうなんですよね、本当に身軽で。運動神経、ということではキッドと張りますよ」
「いやいやいやいやいやいや」
 パオリンとバーナビーの絶賛に、イワンは長めの髪がばさばさと音を立てるくらい、激しく首を振った。
「そそそそそんな。拙者このような能力ゆえ、自力で踏ん張らねばならぬことが多く、そのために修練を積んでいるだけでござる」
「いや、だからそれがスゲエんだろ。自信持てよ」
 ばしばしと、虎徹がイワンの肩を叩く。そしてそれと同時に、全員から、「そうだぞ」「尊敬しますよ」「素晴らしい、そして素晴らしい!」と手放しの賞賛が次々に上がったので、イワンは真っ赤になってうつむいた。

「あ、ありがとうございます……」
「ダーツも勝てたことねえしなあ。シュリケンだっけ? あれもカッコイイし」
「え! ライアン殿、興味あるでござるか!? ならば今度是非!」
「あれ? なんかスイッチ押した?」
 まあホントに興味はあるけど、と言いつつ、ライアンは手裏剣が投げられるという施設にイワンと行く約束をした。
「折紙のさあ、カメラの角度とか位置とかカンペキに見つけて映るあの職人技にも、実はけっこー注目してんだよね俺。ちょっと今度教えてよ」
「おおおおお見切れについても!? 喜んででござるよ!」
「マジで? あざーす、折紙パイセーン」
「あんたたち、実は結構仲いいわよね……」
 見た目全然ジャンル違うのに、とカリーナが感心と呆れが混じったコメントをする。

「あと意外っていえば、ギャビーよね。試験の格闘実技ですっごく身軽だったから、こういうのも全般得意なのかと思ったら」
「まあ、あいつスポーツテストなんか受けたことねえしな。ハードル見て“これをくぐるのですか?”とか言ってたし」
「ああ、そっか」
 ライアンの言葉にカリーナは、反復横跳びやシャトルランのやり方のルールを理解しきれずしばらく首を傾げて疑問符を浮かべていたガブリエラを思い出し、納得の頷きをした。
「瞬発力はいいんだけどな。腕力ねえけど握力はあるし」
 ガブリエラの運動神経自体は良い方であるのだが、この面子の中での順位となれば下から数えたほうが早い。しかし反復横跳びなどの瞬発力においては上位に食い込み、細い身体からは考えられないほど握力が強く、女性平均を大きく上回る。更に柔軟性においてはパオリンと並んでトップだが、ベンチプレスやハンドボール投げにおいては貧弱もいい所で、カリーナを抜いてぶっちぎりの最下位、というばらつきがあった。
「喧嘩強い奴がスポーツできるとも限らねえしなあ。逆もそうだけど。で、そのアンジェラはどこ行ったんだ」
 虎徹が言ったちょうどその時、シュ、と音を立ててドアが開いた。
 出てきたのは、白衣を纏ったアスクレピオスの医師たちと、ヒーローたちのそれぞれの所属企業のスタッフたち、そしてガブリエラであった。



「え、スペシャルケア?」
「はい」

 アスクレピオスホールディングス・ヒーロー事業部における医療チーム、“ケルビム”。その中のひとりが、医師らしいゆったりした仕草で頷いた。

「我々アスクレピオスのヒーロー事業についてはライアンとアンジェラが初めての所属ヒーローなので、ノウハウが足りないところがあります。そこで今回シュテルンビルト七大企業の皆様に掛け合いまして」
 つまり、あなたがたヒーローのデータを取らせてもらう代わりに、NEXT研究の権威であるアスクレピオスの医療的なケアを提供しますよということです、と医師たちは言った。
「今回の体力測定も、その一環です。たいへん参考になりました」
 満足そうににこにこしている医師たちに、ヒーローたちは「はあ」とピンとこない様子である。
「そして、スペシャルケアの中には、ホワイトアンジェラの能力によるものも含まれます。本日はそれを行う予定で」
「えっ、本当!?」
 声を上げたのは、ネイサンである。ばっちりメイクをきめた目が見開かれ、きらきらと輝いている。

「天使ちゃん、本当なの!?」
「はい、ネイサン」
 ガブリエラは、微笑んで頷いた。その横にいた若い医師が一歩進み出る。
「この間の健康診断と今回の測定を元に、ケアが必要と我々が診断した場所を、徹底してケアさせていただきます」
「全身?」
「もちろん、全身です」
 医師たちが、それぞれ頷いた。
「何か特別に気になるところがあれば、重点的にやりますよ!」
「イよっしゃああああああ!!」
 にこにこしてガブリエラが言った途端ものすごい雄叫びを上げてガッツポーズをとったネイサンに、全員が一歩退く。そのリアクションに我に返ったネイサンは、「あらやだホホホ」と慌てて口に手を当ててしなを作った。

「へえ? そんないいもんなのか?」
「いいなんてモンじゃないわよ!」
 のんびりした声を上げたアントニオに、ネイサンが鬼気迫った顔で振り向いた。
「このコの能力、どんだけ凄いと思ってるの!? 肌荒れからくすみやシワまで完全除去! 張りは5年前よりあるんじゃないかってレベルになるし、肩凝りとか浮腫みとかも跡形もなく消しちゃうんだから! どんなエステでもできないわよ、こんなの!」
「お、おお……そうなのか……」
「ええ、アンジェラの能力は凄まじいですからね。それを全身……確かに破格です」
 肌に能力を使ってもらったことのあるバーナビーが、きらりと眼鏡を光らせた。クールな態度のように見えるが、意味なく眼鏡のブリッジを何度も押し上げるその仕草が、彼が興奮していることを表している。

「きちんとお医者様に診断していただいてからでないと危ないこともあるので、いつもは皆さんに対して、肌や髪や、軽い怪我にしか能力を使えませんでした。しかし今回は隅から隅までチェックしましたので、全身どこでもして差し上げられます。私も嬉しいです!」

 にこにこしてガブリエラはそう言い、そんな彼女を見た医師たちも、にこやかに頷いた。
「各企業のCEOやヒーロー事業部の方々も、それぞれお抱えのヒーローが万全の状態になるということで喜んでくださっています。今回はケルビムの医療スタッフはもちろん、我々アスクレピオス系列のエステやマッサージ店から技術者も呼んでおりますので、ご満足いただけるかと思います」
「アスクレピオス、万歳っ!」
「おい、ヘリオスエナジーオーナー」
 虎徹が突っ込んだが、まさに諸手を上げた状態のネイサンは聞いていない。バーナビーもまた「アスクレピオス系列の株、もう少し買いましょうかね」などと呟いている。

「確かに嬉しいけど……全員? ギャビー、あなたは大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ」
 心配そうなカリーナに、ガブリエラは目を細めて微笑んだ。
「お医者様が横についていますし。それに、今回のヒーロー免許更新のために、今までにないぐらいカロリーを溜め込みましたからね!」
 そう言うガブリエラは、確かにいつもよりふっくらしている気がしないでもなかった。
「なん十万キロカロリー余っているやら、さっさと使わないとしっかり脂肪になってしまいます」
「……それは大変だわね」
 ガブリエラが発した数字に、カリーナはぞっとした。
「そうでしょう。ですので協力してください」
「まあ、そういうことなら……でも無理はしないでね」
 あくまでガブリエラを心配するカリーナに、ガブリエラは嬉しそうに頷いた。

「はい、心配は無用です。本当に身体が重くて……」
「重くてっつっても、まだ標準体重以下なんだけどな」
 ライアンが言うと、ガブリエラは口を尖らせた。
「そうかもしれませんが、私はいつもの体重に慣れているのです。この身体ではバイクに乗った時、体重移動が狂ってコケます! 大転倒! 大怪我! ライアンはそうなりたいのですか!」
「俺が後ろ乗ってること前提かよ」
「そもそもスローンズ・モードは、今までの体重で設計されているのです。私には、ライアンを安全に運ぶ義務があります。そのためにも体重は元に戻します!」
「……安全にっていうならもっと別のさあ」
「え? なんですか?」
「別に」
 ライアンは、諦めと慣れの滲んだ顔で言った。
「確かに、アンジェラのスーツは免許試験前のウェイトで精密に設計されていますからね。作り直すのも大変ですし、健康が維持できる範囲ならいいでしょう」
 医師が補足した。そしてガブリエラもまた、皆をケアする側になるだけでなく、エステやマッサージなどは受けるらしい。

「それに、脂肪はなるべく落としておいたほうが、いざという時にもいいです」
「え、そうなのか? お前の場合、脂肪いっぱいあったほうがいざという時に能力いっぱい使えていいんじゃねえの?」
 聞きようによってはまた失礼なことを虎徹が言ったが、正直なところ、それは他のヒーローたちもそう思っているところであった。特にあのメトロ事故で、自分の体を削って瀕死の状態まで痩せ細った彼女を見ているので、殊更その思いは強い。
「いいえ。それはできないのです」
 静かな声で言ったガブリエラに、虎徹は「へ?」と素っ頓狂な声を出した。驚いているのは、他のヒーローたちも同じである。
 彼らもまた、いつも何かというと細々と頻繁に能力を使うガブリエラに対して“いざという時のために取っておいたほうがいいのでは?”と思っていたからだ。
 ガブリエラは医師たちに目配せすると、彼らが頷き、そのうちのひとりが前に出て説明する。

「能力に使うカロリーは、まだアンジェラに吸収されきっていないものが望ましいのです」

 ガブリエラは飲食で摂取したカロリーを消費して、他人の細胞を活性化し怪我や疲労を回復する。しかしその時消費するカロリーは、ガブリエラの身に完全に取り込まれていない状態、つまり脂肪などになりきっていない状態が望ましい。
 なぜならそのほうが、彼女の身体的な負担が少ないからだ。完全に彼女の血肉になっている状態で能力を使った場合、絶食するよりも急激な激痩せをすることになり、筋肉、内臓、ひどければ骨、肉体のその他諸々にかなりの負担がかかる。
「彼女の能力を改めて色々と調べた結果、わかったことです。まだ身体に取り込まれていない、摂取して間もないカロリーを消費してしまう分には完全にカロリーだけの消費となり、蛋白質やビタミンなどの栄養だけがちゃんと残ります」
「なるほど。余計に食べた時はすぐ運動して燃焼しろというのと同じですね」
 納得した様子で頷いたイワンに、「そういうことです」と医師も頷いた。そして今回は実際にカロリーが脂肪に変わってしまっているが、それでもなるべく早く燃焼させてしまえばそこまで体に負担はない、というのも同じである。

 こういう仕組みであるため、ガブリエラはいざという時のために莫大なカロリーを摂取し続けてはいるが、同時にそれを最低でも約12時間以内に能力によって消費してしまうことが推奨されている。
 だからこそ、特に一部リーグになってからのガブリエラは極力、“常に食べ、常に能力を使う”という習慣を繰り返しながら生活しているのだ。ちなみにヴァーチュースモードを使う時に注射される特別なカロリー液は身体吸収率が凄まじく良いため、数十分以内に消費しなければ、ガブリエラの身体にかなりの負担がかかってしまう。

 つまり、“いざというとき”を考えるなら、ガブリエラが脂肪をつけるより、カロリーバーをたくさん持ち歩くというやり方のほうが本人へのダメージもなく、多く能力を使えるのである。

「そうだったんですね」
 ほお、とバーナビーが頷く。
 他のヒーローたちも、皆そうなのかと驚きつつも頷いている。
「特に隠しているわけではないのですが、能力について余り詳細にぺらぺら話すな、と言われていまして……」
「特にヒーローの能力はな。何に付け込まれるかわかったもんじゃねえし」
 ライアンが言い、そして他人事ではない面々は、確かに、と頷いた。そうでなくても、NEXT能力の詳細というのは体重や体脂肪率よりも自ら大々的に口にしにくい情報、という扱いである。──ガブリエラ本人は、全く気にしていないようだが。

「今回は間に合いませんでしたが、主治医の先生からレポートと申請書を出していただいて、今度から私の体重が標準体重以下でも、ちゃんと試験に通るようにして頂く予定です。……二部リーグの試験は、これほど厳しくありませんでしたので……」
 今回は大変でした、とガブリエラは深い実感を込めた様子で言った。

「そういうわけですので、これからは肌でも髪でも筋肉痛でも二日酔いでも気軽におっしゃってください。治させて頂けると助かります」
「そう言って頂けて助かるのはこちらの方ですが……」
 バーナビーの苦笑気味の発言に、皆もうんうんと頷く。ガブリエラがにっこりと笑顔を浮かべたその時、アスクレピオスからだというエステティシャンたちが、ぞろぞろと部屋に入ってきた。



「うーん、それにしてもエステとは。私は初体験だ、そして初体験だ!」
「僕も受けたことありません。マッサージならありますが」
 うきうきわくわくしている様子のキースに、イワンが言った。
「どんな風だったか、教えて下さいね」
「もちろんだとも!」
 朗らかなやり取り。その向こうでも、カリーナとパオリンが、エステだって、私初めて、ギャビーの能力ってまだ使ってもらったことない、と楽しそうにしている。

「──納得行かない」

 そんな中、顰めっ面でそう言ったのは、バーナビーである。
「なんで僕がこっちの組なんですか!」
「しょうがないじゃん、ジュニア君オッサンなんだから」
「ぶん殴りますよライアン」
 ニヤニヤしながら言ったライアンを、バーナビーは鬼気迫る目で睨みつけた。そのすぐ後ろにいたイワンが、流れ弾にあたったかのように「ヒィ!」と可哀想な声を上げている。

 流石にこの人数の徹底ケアを1日で行うのには無理がある、と、ヒーローたちは5人ずつ2組に分けられ、今日と明日を使ってケアを受けることになった。
 そしてこの組分け方法が、年齢順だった。ネイサンや虎徹、アントニオから、キース、バーナビー、ライアン、ガブリエラ、イワン、カリーナ、最年少のパオリン。こうして並べた時、真ん中はバーナビーとライアンの間になる。
 つまりバーナビーは年長組に配置されたわけだが、今まで常に若者組に分けられていた本人は、これが大層ショックであるらしかった。

「くくく、そっかー、バニーちゃんが俺ら組か〜。なんか感慨深いねえ」
 にこにこ、と、にやにや、の中間のような笑みを浮かべている虎徹は、苦虫を噛み潰した顔をしているバーナビーを見た。
「バニーちゃん、男は皆いずれオッサンになるんだよ」
 黙ってろこの肌年齢25歳、とバーナビーは喉まで出かかったが、腹立たしいのでむっつりと黙りこくる。
 相変わらず無駄に張りのある虎徹の肌に、バーナビーは苛々する気持ちを抑えこんだ。エステなどをこまめに受けたり、ガブリエラの能力をそういった方面に使ってもらったりもしたこともなく、普段のケアさえ水で洗っているだけだというのに、虎徹は肌を含めて明らかに若々しい。アラフォーだと明言した時は、ファンたちも一斉にどよめいたものだ。
 イワンが、「タイガー殿は東洋の奇跡を体現してござるなあ……」と呟いている。

「まーまー、いいじゃねーか。先に受けられるんだからよ」
「そうよォ。こーんなすんごいケアが受けられるのに、あなたは明日ね、とか言われたらたまったもんじゃないもの。年上の特権ネッ」
 宥めるように言うアントニオと、非常に上機嫌のネイサンである。ちなみにネイサンはこのケアを受けられるのが本当に嬉しいらしく、順番の最初であることにも臍を曲げたりせず、むしろ「やったイチバン!」と大喜びしている。
「そうそう。それにバニーちゃん、前屈で全然曲がんなくて脚の内側つってたしさあ。まだ痛いだろ? 早めに治してもらったほうがいいって」
「ジュニア君、めちゃめちゃ体硬いね〜。あれちょっとヤバくない?」
「うるさいですよ!」
 実際、内腿から引きつるような痛みはまだ続いている。ニヤニヤ笑いながら蒸し返してくる虎&獅子の猛獣コンビに、バーナビーはヒステリックな声を上げた。

 そしてそうこうしているうちに、「準備ができました、お入り下さい」と女性スタッフが呼びに来たので、年長組はぞろぞろと施術室に向かっていく。
「明日施術を受けられる方は、問診だけ行いますのでこちらへ」
 そして若者組も、まとまって別の部屋に誘導されていった。






「ああ、美味しかった……」
「ラーメン最高! ライアンさん、ごちそうさまー!」
 満足そうな顔のカリーナと、パオリンである。問診が終わった後、年長組が施術を受けている間、残りの若者組で、少し早めの夕食に行ったのだ。メニューはパオリンのリクエストでラーメン、店を選んだのはイワン、財布になったのはライアンである。

「どーいたしましてー。……しっかし、あのカエダマってシステムは画期的だわ」
「やっている所とやっていない所がありますよ。ライアンさんとキッドは健啖家ですから、替え玉があったほうが良いかもと思いまして……」
 店を選んだイワンが、笑みを浮かべて言った。
「おー、あんがとな。ラーメンなんか飲みもんだからさあ」
「ラーメンが飲み物……」
 カリーナが、呆れたように言った。
 いつもパオリンが食べる量に驚くカリーナであるが、ライアンはその比ではない。実際、今日彼は豚骨と醤油と塩でそれぞれ替え玉を頼み、天津飯や餃子などのサイドメニューも注文した。さらに、彼とパオリンの食べっぷりを気に入った店主がサービスで出したごま団子のデザートも、残さず平らげている。

「これでも6分目ってカンジだけど」
「どれだけ食べるのよ!?」
「……あー、なんか最近あいつとばっか飯行くから久しぶりだな、この反応」
 ライアンは、苦笑した。
「あいつって、ギャビーのこと?」
「そう。あいつ俺と同じぐらい食うから」
「そ、そうなの? よく食べるのは知ってるけど……そこまでだったかしら」
「そりゃ、合わせて控えてんだろ。みんな食べ終わってんのにひとりで延々食ってるのも変だし」
 それもそうか、と、カリーナも、そしてイワンとパオリンも納得して頷いた。

「だからあいつと飯食うと、腹いっぱい食えるんだよなあ」

 まだ満腹ではないというライアンは、悠々と歩きながら言った。
★スペシャルエステ★
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BY 餡子郎
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