点と線を繋ぐように(1)
 幸村がドラコ・マルフォイに気持ち悪い何かをぶっかけた────という話は、スリザリンと犬猿の仲のグリフィンドール寮に、猛スピードで伝わった。
 正確には、気持ち悪い何か、ではなくピーブスの“穢れ”なのだが、そんなことを知るはずもない一般生徒らは、胸がスカッとするような気持ちだった。

 現場を誰よりも間近で見ていたロンなんて、まるで自分がドラコをやっつけたかのように、話を盛っていたし、先生に目を付けられるような行為には五月蠅いハーマイオニーも、紅梅を悪く言うマルフォイには頭にきていたので、この時ばかりは何も言わなかった。
 ユキムラだからなあ、と生徒たちのヒソヒソ話を耳にしながら、納得してしまったハリーは、マクゴナガルを相手にうまくやってのけた幸村の姿を思い返し、さすが神の子は違うと再認識していた。

 さて、そんなグリフィンドール生たちの一日は、これで終わりではない。
 水曜日の真夜中には天文学の授業だ。これは、レイブンクローの生徒たちと合同の授業で、星には詳しい手塚は、ハーマイオニーと並んで、自寮に加点することが出来た。ホグワーツの授業で、積極的に加点出来たのはこれが初の経験だ。
 反対に、思わぬライバルの出現に目を光らせたのはハーマイオニーである。レイブンクローといえば、“レイブンクローの博士と教授”と噂され始めている、乾貞治と柳蓮二の二人が要注意人物だと思っていた彼女からすれば、手塚国光という存在はとんでもない伏兵であった。
 手塚、柳、乾の三人を相手に、孤軍奮闘するハーマイオニーには、半分夢の世界に誘われかけていたロンを起こしてしまうくらいにはヒートアップしていた。

 そんなハーマイオニーに、担当教諭のオーロラ・シニストラ先生は、くすくすと優雅に微笑むだけだ。
 波打つプラチナブロンドの髪に、星を散りばめたようなローブを着ているので、星の光できらきらと輝いている。

「星座を探す時には、手掛かりとなる星の並びが各季節に存在します。春・秋・冬は、大三角形は、先ほど答えてもらいました」

 誇らしげに鼻を高くさせるハーマイオニーに、シニストラはゆったりとローブを翻して言った。

「そうなると、秋にも秋の大三角形が存在するかと思ってしまいがちですが……秋には大三角形ではなく、四辺形が存在します。ふふっ、とても不思議ですね。では、さっそく探してみましょう」

 つい、と杖で、少し離れた望遠鏡を呪文で呼び寄せたシニストラは、南の方角へ向けて望遠鏡を覗きこむように、生徒らに指示をする。
 生徒たちは素直に望遠鏡を覗きこみ、秋の夜空の世界へと飛び込む。
 秋の四辺形は南の空高くに並んだ四辺形で形作られている。だが、なかなか見つからない。

 レイブンクローの三人は、苦労することなくあっさりと見つけ出した。授業の邪魔をしないように、近くで困っている他の生徒らに助言を与える余裕さえ見せている。
 一方、ハーマイオニーは、教科書の資料集で見た星座は頭に叩き込まれていても、実際に望遠鏡を覗きこむと、さっぱりわからない。水を得た魚のようだったさっきとは打って変わり、うんうんと唸る彼女に、紫乃はにっこりと笑って、四つの星を指さす。そうして、線で繋ぐようになぞった。
 近くで見ていた幸村と白石だけではなく、同じく星を見つけられなかったグリフィンドール生たちは、紫乃の指先を一斉に注目してしまったので、紫乃は恥ずかしさのあまり身体を小さくしてしまった。

「さあ、みなさん。秋の四角形は見つかりましたか?」

 ぱんぱん、とかしわ手を打ち、注目を集めたシニストラ先生は、おっとりと微笑む。
 レイブンクロー生の半数は、博士と教授、そして手塚のアドバイスによって見つけ出すことが出来たが、グリフィンドール生はほとんどが見つけられなかった。
 どれも同じに見えてしまうよ、と、ロンは酷くつまらなさそうだ。

「各季節の大三角形は一等星、つまり一番明るい星から成り立っていますが、秋の四辺形はその次の明るさの二等星で構成されています」

 少し見えにくかったわね、とおどけてみせた先生に、見つけ出すことのできなかった生徒たちは、そろってホッと胸を撫で下ろした。
 もう一度、望遠鏡に覗きこむように、と指示し、シニストラは続ける。

「いまからわたくしが星を繋ぎますからよく見ていてくださいね」

 言いながら、シニストラの杖が真っ白な輝きを放ち、星々を線で繋いでゆく。もちろん、当たり前だが星と星を線で繋ぐことは不可能で、実際には視覚的に“繋いでいる”ように見せかけているだけだ。
 完成した四角形に、さらに杖をすべらせ、直線を付け加えてゆく。
 ようやく先生が杖を下ろせば、現れたのはよくわからないヒレヒレのついた四角形だった。

「まだわかりにくいかしら? では、わかりやすくひっくり返して、さらにイラストも重ねてみましょうね」

 ひゅん、と軽く振られた杖から飛び出した光は、線で繋がれた星を上下さかさまにし、さらに何かを重ねた。

「ペガサスよ!」

 きゃあ、と女の子たちから歓声があがる。
 白い翼を持った天馬────ペガサスは、女の子たちの憧れである。

「正確には、“Pegasus”ペガススです。ラテン語発音となります」
「どうして身体の半分しか見えないんだろう……?」
「あら、いま発言したのは誰かしら?」

 思いの外、独り言が大きかったようで、自分の呟きを先生に拾われたハリーは、慌てて両手で口を覆った。
 しかし、シニストラは笑顔のまま、とてもいい質問です、とハリーを褒めたので、ハリーは減点されなくてよかった、と安堵した。

「身体の半分だけの形となっているのは、天高く飛んでいるため雲に隠れているからです。あまりに早すぎて後ろ半分が見えないため、という説もありますよ」

 その解説に、単純にそれ以上に星を繋ぐことができなかったからでは、と誰もが思ったが、ロマンティックな夜空を見上げる中、そんな発言をするは無粋に思われた。

「では、続いて秋の星空で唯一の一等星、フォーマルハウトを見つけましょう。みなみのうお座の星ですよ。今度は簡単に見つけられるはずです」

 終始おだやかなシニストラ先生だったが、テキパキとした授業の進め方のせいか、生徒らは眠たそうにしながらも、全員が確実に星々を見つけ出すことに成功したのだった。





 時計の長針と短針が、両方とも天辺を指す頃、ようやく授業は終わりを迎えた。
 ほとんどが眠そうに瞼を擦って部屋へと戻る中、テニス部の彼らは、目をぱっちりさせていた。なんせ、授業の最後には課題が発表されるので、ここで寝てしまうわけにはいかないのだ。
 秋の星座図を描く、という課題をしっかりとメモしたテニス部の面々は、暗がりの中を転ばないようにしっかりと地に足を付けて歩いていた。

「レイブンクローの博士と教授の名前は、伊達じゃなかったわ」

 塔を降りる階段に差し掛かった辺りで、レイブンクローの三人に声を掛けたのは、もちろんハーマイオニーだった。
 彼女のすぐ後から、遅れて紫乃が、さらにその後を白石と幸村がやって来る。

「私は────」
「ハーマイオニー・ジーン・グレンジャー。グリフィンドール寮所属でマグル出身者。両親は歯科医師。所有する杖は、本体がブドウ、芯はドラゴンの心臓の琴線。読んだことのある本に書かれている────」
「……貞治。その辺にしておいたらどうだ」

 自己紹介をしようとしたハーマイオニーの言葉を覆い被せた乾に、柳は制止の声を投げた。きょとん、と大学ノートを閉じ、事態を理解していない乾だが、目の前のハーマイオニーはドン引きしていた。
 そして、それは紫乃と手塚、白石、幸村も右に同じく、であった。
 情報収集能力と処理能力、理化学的な論理思考による計算能力にずば抜ける乾に、留学生組は誰もが一目を置いていたとはいえ、ここまで人のプライバシーを調べつくしている姿を目の当たりにして、何も思わないはずがなかった。
 白石辺りは「俺のデータも収集済みなんやろな、こわぁ……!」と、両手で自分を抱きしめ、ぶるっと震わせた。白石のその反応に声もなく、にやぁと笑った乾に、白石は蒼褪め、ヒッと息を呑んだ。

「ど、どこでそんな情報を……!」
「知りたい?」

 眼鏡が逆光になっているせいで、不気味な笑みとなっている乾の笑顔は、恐怖そのものである。
 ハーマイオニーは、ぞわっと鳥肌が立ったような寒気を覚えた。これがストーカーというやつなのか、と、近くに居た紫乃を引き連れ、不審者を見つめるような目で距離を取る。
 後退するハーマイオニーに、このままでは日本人に対して変な印象を持たれてしまう、と直感した柳は、「すまない」と一言詫びる。

「研究者の性分ゆえに、情報収集が行き過ぎているだけだ。彼に悪気はないし、君のプライバシーをむやみに公開するつもりもないと弁解しておく」
「そ、そう……」
「……変な汁を作るけどね」
「汁?」

 恨みがましく吐いた幸村。神の子でも、よっぽど乾汁がお気に召さなかったようだ。
 怪訝そうに問うたハーマイオニーに、「気にするな」と柳は流した。

「レイブンクローの柳蓮二という。彼は乾貞治だ。君の噂はよく聞く。マグル出身者でありながら、どの授業でも積極的に発言し、自寮に加点する秀才であると」

 乾をフォローしながら、ハーマイオニーをさりげなく褒める。讃えられて悪い気はしない。少し照れたように口を噤む彼女を見て、手塚は素直に感心した。見事なまでの話題転換である。

「でも今日の授業は、いつものようには得点できなかったわ! 貴方たち三人のおかげでね」

 ハーマイオニーの視線が手塚へと移る。
 いつも授業で発言している乾と柳ならともかく、まさか自分まで指名されると思っていなかった手塚は、かすかに目を瞠った。

「まさか、“みっちゃん”が貴方だとは思っていなかったけど……」
 紫乃から幼馴染の話は聞かされていたが、想像していた“みっちゃん”が、こんなにも気難しそうな少年だとは。言外に、予想していなかったと滲ませる。
 手塚国光だ、と簡潔に自己紹介した手塚に、ハーマイオニー以外が苦笑した。

「乾と柳はともかく、俺は運が良かったにすぎない。この授業はそれこそマグルの地学と大差がないようだったから」

 手塚の発言には理由がある。なんせこの授業、真夜中に望遠鏡で夜空を観察し、星の名前や惑星の動きを勉強する、というマグルの授業そのものだったからだ。
 星の名前・位置・由来など、キャンプが趣味の手塚にとっては、ホグワーツにおいて数少ない得意科目となり、積極的な加点に貢献できた。
 変身術や呪文学などのイメージといった抽象的なトレーニングを必要としないため、安心したのは彼一人だけの秘密である。唯一、本領発揮できたといってもいい。
 「みっちゃんと星を見るの好きだよ」とは紫乃。二人で毛布を被って夜空を見上げるのは、冬には恒例の行事のようなものとなっていた。

「フッ、無理もない。なぜなら、この授業はとあるマグルの存在により、魔法族が急ぎ理論化した学問だからな」
「えっ、そうなん!? 逆輸入みたいなもんなん!?」

 静かに笑った柳に、驚いたのはハーマイオニーと手塚だけではない。うっかり白石は階段を踏み外しかけた。
 薬草や薬学といった実用的な学問とは違い、星という漠然とした学問に、さして興味がなかった白石からすれば、マグルによって体系化されたものだという事実が意外だった。こういったファンタジックな代物は、すべて魔法族によって編み出されたものだろう、という偏見も多分にある。

「そもそも天文学という学問は占い学の一種であり、星占いに分類されていた。このあたりは千石の方が詳しいだろうが、藤宮も専門と言えるのではないか?」

 唐突な柳の問いかけに、紫乃がびっくりしたのは数秒ほどのことだ。そろり、と下ろした足を引っこめた。
 すぐに落ち着きを取り戻し、首肯する。

「う、うん。占う時にも、もちろん必要だけど、反閇へんばいにも必要になるよ」
「へんばい?」
「えっとね、特別な歩き方っていうのかな……うーん」

 聞き返したハーマイオニーに、悩みながら、たどたどしくも紫乃は説明する。
 陰陽師の呪術的歩法の一つに、反閇へんばいというものがある。道教では「兎歩うほ」という北斗七星の形や八卦の意味を込めた歩行法があり、これにより安全の保証を得ることが出来る。
 この兎歩が陰陽道に取り入れられて、反閇と呼ばれるようになった。これは、地の霊や邪気を祓い鎮め、その場を浄化する目的で行われる。
 その歩行において、足捌きは神楽や能楽などにも取り入れられている。「ちゃんも、きっと知ってると思う」と付け加えた。神楽舞「四神」の第三段の「踏」という所作の足捌きは、北斗七星の形を踏んでいるのである。
 「ちなみに、相撲でいう『四股』も、この兎歩を原点としている」と、柳が補足した。

「それが星と関係あるの?」
 幸村の質問に、紫乃はにこりと微笑み、「あるよ」と元気に答えた。
「九星の配置の通りに歩くの」

  天蓬星てんほうせい天内星てんないせい天冲星てんちゅうせい天輔星てんほせい天禽星てんきせい天心星てんしんせい天柱星てんちゅうせい天任星てんにんせい天英星てんえいせい。囁くような声が告げるのは、九の星の名前。
 それらの名に反応したのは、意外にも手塚だった。

「三国志か」
 紫乃が、こくりと頷いた。

 紫乃が告げた名の星たちを利用し、方位を知ることで運命を切り開く術がある。その術式こそ、奇門遁甲きもんとんこうである。
 中国で発祥した方位術であり、三国志に登場する諸葛亮公明が駆使したことにより有名だ。
 もしもこの場に真田が居れば、真田と手塚の二人で、熱く三国志について語ったかもしれない。

「────とまあ、このように魔法族は星との関わりが深い。位置関係によって、悪しき方向を知る等、上手く活用して来たが……、とりわけ重要とされてきたのは大昔の話だ」
「まあ、占いとはそういうものだよね」

 古代エジプト、邪馬台国の卑弥呼などの時代なら、いざ知らず。
 時代と共に、占いという魔法よりも、魔法によって身を守る術を身につけるべく、実用的な魔法に対する研究の方が優先されたのは、自然な流れであり、致し方の無いことだ。
 幸村が同意するように、やがて占いが、「今日はこの方角に注意しよう」などといった消極的な活用をされるようになったのは、むしろ当然とも言える。
 つい数年前までブームだった日本の風水学も、最近は下火となっている。専門家はともかくとして、神経質にも家具の位置を気にする一般人は、ごくごく稀だ。

「したがって、一般教養という程度の扱いだった占いや天文学が、必須科目へと格上げされたのにはわけがある。とあるマグルが、フランス国王の死を預言し、的中させたからだ」
「ミシェル・ド・ノートルダム。通称・ノストラダムス、と言った方がわかりやすいかな。ノストラダムスの大予言で、かなり話題になったから、皆も知っているだろう?」

 誰もが一度は耳にした人物の名に、一瞬、柳と乾以外の全員が沈黙した。
 フランス革命、ナポレオンの出現、ヒトラーの出現、第一次世界大戦など、歴史上の大事件を彼は預言したとされている。とりわけ、知られている預言は四行詩と呼ばれる予言であろう。

「彼が特に興味を持っていたのは天文学だった。当時、異端者扱いだったコペルニクスに傾倒し、地動説に荷担している」

 その当時の宗教的批判が相当なものであったことは、想像に難くない。人間の住む地球は、宇宙の中心であるのにふさわしい、と考える当時のキリスト教神学からすれば、その真逆の説である地動説など、神への冒涜以外の何物でもない。
 当然、危険思想とされる考え方をする彼に、教会の監視の目が光るのは当たり前で、異端者扱いを受けることを恐れた彼の両親が、大学医学部へと遊学させたほどだ。それでもなおノストラダムスは、30代の時には、以前より教会から目を付けられていることを理由に、各地を転々としている。

「この放浪期間中、研究を進め────予言集を出版した。その本の記述の中に、当時のフランス国王・アンリ二世の死を予言したものがある」
「以来、魔法族としても、占いという学問、とりわけ天文学に関しての教育をおろそかにすることはできない、という動きになったみたいだね」

 乾の締めくくりに対し、「むしろ星の動きが読めなければ、魔法以前の問題ではないか?」と、怪訝そうに発言したのは手塚だった。
 「海や山で遭難した時に、星の位置がわからなければ命にかかわる」……なかなかに重い発言である。

「いや、うん……ほんま、手塚君て真面目やと思うで! ええことやで、うん!」
 努めて明るく言ったのは白石だ。
 誰もこの現代社会で、そんな危機的状況に陥ったりはしない。漁師や登山家なら話は別だが。
 喉まで出かかった発言を、紫乃以外の誰もがあえて飲み込んだのは、手塚がきりっとした真顔であるがゆえなのだろう。大真面目に頷いているのは紫乃くらいなものだ。
 「手塚に限ってワザとなはずがない。え、てことは手塚って天然? そうか、天然だったのか……」と、密かな発見である。

「もう、信じられないわ!!」

 そんな中、肩をふるふると震わせ、嘆くように叫んだのはハーマイオニーだった。
 突然の出来事に、「ハーちゃん、どうしたの?」と紫乃は心配するように、ハーマイオニーの顔を覗きこむ。
「グレンジャーさん、大丈夫なん?」
 白石もまた、案じるように振り返った。
 しかし、周りの心配をよそに、ハーマイオニーはいたって元気である。

「ついさっき! インクを切らしたの!! おかげで、いまの話をまとめることができないのよ!」

 天文学の知識だけではなく、陰陽術や日本舞踊にまで話が及んだこの会話は、ハーマイオニーからすれば何としてでも書きとめておきたい内容だった。
 インクさえあれば、今すぐにでも羊皮紙に書き残したくてうずうずしている。
 ついに、居ても立ってもいられなくなった彼女は、「ごめんなさい、シノ! いまの話を忘れてしまわない内に書き残しておきたいの!!」と言い残し、物凄い早さでグリフィンドール寮へと向かった。
 置いてけぼりにされた紫乃は、待っても何もない。止める間もなかった。



「常に努力し、上を目指す彼女の姿勢を見習わなくてはならないな」

 マグルだから、と弱気になってはいけないと気を引き締めた手塚に、「真田ががむしゃらに全力のトレーニングをするタイプなら、手塚はとんでもなく長い距離をひたすらに走り続けるタイプだよね」と、幸村は苦笑した。

「では、ここまでだな」
「また明日」
「おやすみ〜」
「ああ、おやすみ」

 そうして、階段を降りきった踊り場。レイブンクローとグリフィンドールへの分かれ道で、紫乃は立ち止まる。

紫乃ちゃん?」
「あ、うん」

 振り返ることなく寮へと帰って行く手塚の後姿を、ほんの少し、寂しそうに見送ったのだった。
点と線を繋ぐように(1)(2)(3)