完璧な仕事の前には、あらゆる周到な準備が必要だ。
その“仕事”のターゲットが、世界三大美色に数えられる緋の目──というよりも、その緋の目を持つクルタ族である今回、その準備は周到も周到に、限界を超えてを極めなければならないだろう、と、幻影旅団、そしてその団長であるクロロ・ルシルフルは確信していた。
その美しい赤い目のせいで太古の昔から狙われ続けているクルタ族は、常に身を隠し、しかも不定期に居場所を変える。
それを甘く見ていたクロロたちは、既に二回も移動後の痕を拝むはめになっている。
つまり、閻魔もうんざりし、悪魔も匙を投げ、最近はもうすっかり悪名が天にも轟かんかというばかりのあの幻影旅団が、二回もハズレくじを引かされているのである。
まず前提として、彼らに「人の身になって考える」とか、「レジで商品と引き換えに金を払う」とか、「場の雰囲気を壊さないように嫌味に耐える」とか、端的に言うならば「まっとうかつ常識的に生きる」という意思などない。いや、考えた事すらないかもしれない。
欲しいものは奪え。社会性とか協調性とか思いやりとか、そういう尊いものを跡形もなくぶっ飛ばした、身も蓋もない大原則を恥ずかしげもなく掲げる幻影旅団という集団は、言い換えれば、この世で最も大人げがまったくない集団、つまりは、犯罪者の中の犯罪者だった。
そして、恥ずべき過去二回の失態のお陰で、当初の“緋の目を手に入れたい”ということよりも、“何としてでもクルタ族を捕らえてやる”、と目的がすり替わっている感が否めない彼らは、今度こそ目的を達成せんと、持てるスキルの全てを使って“周到な準備”にかかっていた──……その最中の事だった。
「…………………………」
社会性とか協調性とか思いやりとか大人げとかの尊げなものがおそらく世界一ないかもしれない犯罪者集団の筆頭、クロロ・ルシルフルは、目の前に突然現れた意外な存在に、柄にもなく五秒ほど無言で立ち尽くした。
大地の磁場の狂いを知り尽くし、巧みに身を隠して移動するクルタ族の居場所をはっきりと突き止めるのは、やはり相当難しい事だった。
しかし、彼らはついにクルタ族の居場所に肉薄した。肉薄しただけではっきりと分かったわけではないのだが、とりあえずこのルクソ地方の山脈のどこかにいるのは明らかだった。
だからクロロは、その場所をもういっそ一度直接脚で探してみようと、この森を半ば自棄くそで歩いていたわけである。ムキになっているのは既に前提事項だ。
まん丸い目を更に見開き、子供らしい無遠慮さでクロロを凝視している子供は、肩にかかるかかからないかくらいの、ほとんど真っ白な銀髪をしていた。
子供特有の白目にも青みがかった目は、クルタの平常時の目の色である茶色でもなく、もちろん緋の目でもなく、「色のない目」というならばきっとこういう目だろうというような、髪と同じ白っぽい灰色だった。
着ている生成りのシャツはおそらく年長者のお下がりなのだろう、サイズがあっていないため、中で身体が泳いでいる。
「……ここで何をしている?」
クルタでもない子供が、一人で人気のない、しかも磁場の狂った樹海のような森でしゃがみ込んでいる。まさか妖怪か、と疑ってもいいぐらいの不自然さだった。
「べつに」
子供は、幼児らしい高くて甘い声で、実にあっさりと答えた。そして色のない目で、突っ立ったまま見下ろしてくるクロロに怯える事もなく、彼を見上げた。
クロロは、どうすべきかと思考を巡らせた。
クルタのことを聞いてみるべきか。この子供はおそらくクルタではないが、ここらには、潜伏しているクルタ以外でこの子供の面倒を見ているだろう心当たりは一切ない。調べに調べ尽くしているのだから、それは確かだ。
いっそこの子供を誘拐してみて彼らに反応があれば居場所がわかるかも、とも思ったが、追われに追われ続けている彼らは、同じクルタ族でない者に対してはわりと薄情な性質がある。その手を使っても無駄足に終わる確率は高い。……しかし、このまま去っても怪しかろう。
「ねえ、おままごとしよう」
さあ本当にどうしたものかともう一度思ったその時、子供は突然言った。
「……なに?」
ままごとなどに誘われたのは、生まれて初めての経験だった。クロロも一応人間なのだから、子供時代はもちろんあった。だが彼は男だし、子供の頃は遊ぶ事よりも生きる事のほうに一杯一杯だったし、仲間の女性陣だってそうだった。
「おままごとしよう。あたしはこども、クロロがパパね」
その声に、今度はクロロが目を見開いた。彼はもちろん名乗ってはいない。
クロロは一瞬で警戒を最大まで高め、子供を見た。
「……なぜ俺の名前を知っている?」
「えっと、ママが」
「……ママ?」
「うん。……あっ! 言っちゃいけないんだった!」
子供はハっとしたような仕草でそう叫び、慌てて両手で自分の口を抑えた。どうも、頭の出来はあまり良くないらしい。
しかし、決して油断はならない。この子供は、“絶”状態のクロロを、こうしてまんまと能力の範囲内に入れたのだから。
誰が鍛えたのかは分からないが、この年齢で念が使える、しかも二畳程度もの“円”と、油断していたとはいえ、一般人だと思わせクロロを欺いた“絶”の才能は十分驚嘆に値する。
そして、こんな子供がクルタにいるということは、こういう子供を育てられるだけの使い手がクルタにいるかもしれない、ということだ。
それは戦闘を好む旅団としては楽しみな事でもあったが、まずクルタ族の居場所を突き止めなくてはならない彼らにとっては、今の状況は紛れもなく痛手である。
クルタに二度も肩すかしを食らい、今度はこんな子供にしてやられるとは、と、クロロは極めて不機嫌になった。
だが、とにかく何らかの能力を発動させられたのは明らかだ。
クロロは警戒しながら後ずさった──が、それは適わなかった。ドン、と背中が見えない何かにぶつかり、それ以上先に進むことが出来なかったのである。
「……何をした?」
「だめだよ、“おうち”から出ちゃ」
「“おうち”……?」
クロロが訝しげな顔をすると、子供は落ちていた枝を取り、「ここから、ここまでね」と言いながら、地面にがりがりと線を引いた。
四畳半程度の、四角い範囲。それは紛れもなくこの子供の“円”の範囲そのままで、そしてままごとの“おうち”そのままでもあった。
──自分の円の範囲に、己とともに対象を閉じ込める能力。
クロロは、子供の能力をそう判断した。
そしてそれは、おそらくその通りだろう。さらにそれとは別に、『ママ』と呼ばれる、クロロの名前を読み取る能力。特質系だろうか。
「………………!」
「きゃっ」
目にも留まらぬ早さで子供に抜き手をしてみたが、それも無駄に終わる。
本気を出していなかったとはいえ、下手をしたら死ぬ程度には十分な力を持った一撃が、額を少し強くつつく程度の威力に留まった。子供の丸くて広い額に触れた瞬間、クロロの手はバチンと叩かれるような感触でもって弾かれてしまったのである。
(攻撃不可能……? いや、今の衝撃なら、本気を出せば……)
自分より強い者を攻撃可能なまま自分とともに閉じ込めるのは自殺行為なのだから予想はしていたが、やはり子供を攻撃する事は難しいようだ。
なかなか厄介な能力だ、とクロロは子供を見た。コテンと後ろに尻餅をついた子供は、痛くはないようだが、むっとしたような顔で、指がぶつかったところをさすっている。
見た限り、子供は“円”と“絶”は達者だが、“凝”などは全く出来ていないようだった。何をされたのか自体、よく分かっていないかもしれない。
「なんでぶつの」
「打ってない。ちょっと触っただけだ」
「嘘。ぶった。ころんだもん」
「お前が勝手に転んだんだ」
「……いいもん」
何が“いいもん”なのかはよくわからなかったが、子供はクロロを糾弾するのを諦めたようだった。
「パパは、クルタの人たちに会いに来た人?」
子供は、突然言った。
「……おまえはクルタか?」
「違うよ。でも、クルタで暮らしてるの。パパはクルタの人たちに会いに来たの?」
やはりクルタの関係者であるらしい。クロロは、子供の質問には答えなかった。
「……参ったな。ここから出してくれないか?」
「おでかけしたい?」
子供はくりっと首を傾げた。
「クルタの人たちに何もしないって約束するなら、おでかけしてもいいよ」
「わかった。約束する」
クロロは、即答で嘘をついた。
「うん。じゃ、ばいばい」
実にあっさりした返答に、クロロは拍子抜けして目を丸くした。頭の悪い子供とはいえ、当然相当ゴネられるだろうと思っていたからだ。
ごく稀に、生まれつき精孔が開いていて、本人に自覚がないまま能力を発動させている子供がいる。
どの分野でも、ずば抜けた才能の持ち主は本人も知らずに念を使っている場合が多く、そういう人間がそれだ。そして何を隠そう、クロロもそれだった。
そしてあっさり彼を逃がそうとしている子供もまた、そのパターンなのかもしれない。先ほどの会話からするに、能力はあっても頭はあまり良くない様子だし、その可能性は高い。
クロロはそう判断して円の外に出ようとしたが、またも壁にぶつかるような感触で阻まれた。振り返ると、子供は「おでかけするときは、ドアを開けて“いってきます”って言わないとダメなんだよ、パパ」と言った。
「……“行ってきます”」
仕方なくそう言いながら、ドアを開ける仕草をする。
なんで俺はこんな森の中で子供に父親呼ばわりされながらパントマイムなどしているのだろうか、というどこか虚しい思いがクロロの頭をフッと過ったが、その動作をすると、あっさりと外に出ることが出来た。
そしてもう一度外から触れると、やはりそこには見えない壁がある。攻撃しても、この壁を壊す事はおそらく出来ないだろう。
鉄壁の防御能力だな、とクロロは少し感心した。
振り向くと、“家”の中で、子供が紅葉のような小さな手を振っている。
聞きたい事は山ほどあったが、脅して情報を聞くこともできない状況でここに留まっているのは得策ではない。
クロロは身を翻し、仲間の待つアジトへ走った。
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「んー、こっちだね」
発信器の反応を見ながら、シャルナークが言った。
言わずもがな、発信器とは、抜き手で攻撃した際、クロロがあの子供に取り付けた発信器である。
攻撃する事は出来なかったが、それ以外の事で触れる事は可能なようだ。
あの子供は、十中八九、クロロのことをクルタたちに報告するだろう。
そして過去二度の経験から言って、彼らは即座に移動を始めるに違いない。だからクロロは皆の元に帰ると、速攻で子供につけた発信器を追う事にした。急な話だったが、“周到に周到を重ねた用意”を尽くしていた彼らの行動は早かった。
「少なくとも、この子は動いてない。今度こそビンゴかな」
「よし、急ぐぞ」
旅団全員が全速力で走った先には、三度目の正直、クルタの集落があった。
やはりあの子供が報告したのだろう、彼らは移動の準備を始めているところだった。
クロロたちが殺気を漲らせて現れた途端、彼らは素早く散り散りになる体勢に入る。追われ続ける部族ならではの、行動の早さ。これで二度も逃げられたのだ。
無数の双眸が、クロロたちをじっと見つめている。
緋の目は、感情が高ぶった時にしか発現しない。
だからクロロたちは、彼らを激昂させ、その瞬間に殺す、という手段を当然とるつもりでいた。手始めに子供か女かでもを殺せば、簡単な事だろう。
そしてその予想通り、一番近くにいた子供の首を片手で持って吊り上げた時の反応は、思わず笑ってしまうくらいに目的通りのものだった。
吊り上げられてじたばたと暴れる子供を見た途端、全員の目が鮮やかな緋色に変化した。
更にクロロたちがあの悪名高い幻影旅団だとわかった時は、血よりも美しい赤が、何とも言えない震えを持つ。その美しさに、クロロはぞくりとした感触が背筋に昇るのを自覚した。
そのうち、真っ赤な目で雄叫びを上げながら突進してきたクルタの男たちと、団員の何名かが戦闘を始める。
クルタの戦士たちはなかなかに強く、一ヶ月前に入った団員ひとりを道連れにして数名が死んだ。その際、クルタたちの頭が吹っ飛んだことにクロロが舌打ちする。だがその団員のほうも最後の最後で、クルタの男の首をひとつ飛ばした。
だがゴロンと転がった男の首、その目は鮮やかな緋色。その瞬間、またもクルタ全員の目が鮮やかな色に変わる。クロロたちがぞくぞくと激しい武者震いを感じたその時だった。
「パパ」
幼い声には、聞き覚えがあった。振り向くと、そこには小さな子供がいた。改めて見ると、本当に小さい。身長は百センチと少し位しかないだろう。
子供は白い髪を揺らしてとことことクロロの側に歩いてきた。フェイタンが服の下でカチャリと音をさせるのを、クロロは雰囲気で止める。
「はぁ? パパ? 団長、ガキなんていつ作ったよ」
「俺のじゃない」
ひっくり返ったような声で言うフィンクスに、クロロは少し苦笑しながら言った。
美しい緋色の輝きたちの中、この子供の目はやはり無色だ。クロロは緋の目に惹かれていたが、この無色の目にも興味を抱き始めていた。
子供はじっとクロロたちを観察するように見つめていたが、不意に言った。
「おかえり、パパ」
「……!?」
子供がそう言った瞬間、子供の念が発動したのが分かった。
(“円”はしていなかったはず……!)
今もしていない。子供の能力は、円の範囲に対象を閉じ込める能力ではなかったのか。
「約束したのに」
「………………」
子供は、じっとクロロを見上げている。
色のない目は、感情が酷く読み取りづらい。すぐ側には真っ赤な目をした男の首が転がっているのだが、クロロには、子供が怯えているのかそうでないのかは分からなかった。
「パパのうそつき」
幼い声が言った。
「……“
ママに言いつけちゃうから”」
そう子供が言った瞬間、ビキッ、とクロロの身体が動かなくなり、ガクンと膝をつく姿勢になった。同時に彼の手も動かなくなり、首を絞められていたクルタの子供が放り出される。
電光石火の判断で、数人が子供を攻撃する。
──ガキン!
「──くッ! 団長……ッ!?」
が、それらはすべて見えない壁に阻まれた。自分の力の反動を受けた団員たちは、もの凄い形相で子供を睨んでいる。
「ゲホッ……
シロノっ……!」
激しく咳き込んでいたクルタの子供が、おそらく白い髪の子供の名前を呼ぶ。涙が流れた頬に、金髪が張り付いていた。
「……なんだ、あれは……」
マチが、呆然としたような、訝しげな声を出した。子供の背後に、陽炎にしてははっきりしするゆらゆらしたものは、女の形をしていた。
「
“ママ”、」
子供が言った。
「
“パパが約束をやぶった”」
子供がそう言った瞬間、“ママ”と呼ばれたそのオーラが、まるで“練”を行なったようにして、かなりの力を持ったのがわかった。しかもそれは、幻影旅団の者たちの力量を持ってして、「やばい」と思えるくらいのもの。
「……団長! 何ボーっとしてんだ、ガード……」
「無理だ。身体が全く動かん上に、強制的に絶状態にされてしまっている」
「なっ……」
「口はきけるようだが」
クロロは、二度目の「参ったな」を言った。
「何をする気だ?」
「
“おしおき”」
幽霊のオーラは、まるで怒り狂っているような燃え方をしていた。
そして、幽霊がビンタの構えのようなポーズで大きく振り上げた右手に、そのオーラがどんどん凝縮されて集まっていく。
手のひらの上に集められたオーラの塊は、凄まじい密度で凝縮を続けていた。
「“おしおき”とは何だ?」
膝をつき、ほとんど座り込んだ姿勢のクロロと子供の目線は、丁度同じ位になっている。
そうしてきちんと正面から子供を見ると、子供の性別が女の子で、おそらく四、五歳程度だろうということがわかった。
「一回約束をやぶったら、一回“おしおき”。絶対当たるよ」
「なるほど。“おしおき”は一発だけか? それで死ななくても?」
「うん」
クロロをまんまと窮地に追い込んでいる割に、直接話す子供はとても頭が弱そうだった。まともな念能力者なら、自分の能力を聞かれるままべらべら話したりはしない。
「では、その痛そうなビンタに耐えれば、“おしおき”は終わりなわけだな?」
「そうだけど、パパはさっきあたしをぶったでしょ? その分がもう一回あるから」
その答えを聞いて、クロロは三度目の「参ったな」を言った。
“絶”の状態であの一撃を食らったら、本当にシャレにならない。万がいち一撃目に耐えられたとしても、それ以上は自信がなかった。普通に死ぬ。
「ガキのくせに、敵の頭を人質に取るとはなかなかやるな」
「ひとじち……」
クロロの言葉に、子供は言われた意味を考えるかのように小首を傾げた。
「ひとじち、うん、そう。えっとね、帰ってくれないとパパを“おしおき”するよ」
子供は団員たちに向かって、できるだけ聞こえるようにと思ったのか、大きな声でそう言った。高くて甘い、幼児らしい細い声での拙い脅しだったが、それだけに薄ら寒いものがある。
「団長。どうするね」
フェイタンが、忌々しさや苛つきを微塵も隠さない声色で言った。
──生かすべきは個人ではなく、“蜘蛛”。
それは旅団結成時に決めた方針で、“蜘蛛”の目的を遂行する上で仲間が死んでも、全体が無事であれば問題ない、という考え方だった。それがもし団長であるクロロでも、である。この考え方により、“蜘蛛”という集団に弱みはなくなる。
しかし、今は団長が指示を下せる状態にある。
「“緋の目”が死んでも欲しいか、団長?」
ストレートなフェイタンの聞き方に、クロロは少し笑った。
しかし“緋の目”を欲しがったのはクロロだし──全員虐殺、という行為にノリ気であった者は数名いるが──、愛でるのが目的で奪いにきたのに、自分が死んでしまうのは馬鹿馬鹿しい話だ。
「そうだな……」
クロロは、子供の目を見た。
死ぬかもしれないというのに何の動揺もないクロロと同じく、子供の目もまた相変わらず無色のままで、ぞっとするほど透明だった。
正直な所、クロロは既に“緋の目”に以前ほどの魅力を感じなくなっていた。
そしてその削がれたぶんの興味は、このクリスタルのような透明度を持つ目に向けられている。冷ややかではないが暖かくもなく、人形のように無機質ではないが熱い感情もない、ただただ透明で、何の不純物もない不思議な目。
「“緋の目”はやはり欲しい……が、死んでも、というのではないな」
「では、どうするね」
「……残念ながら、妥協だ。取引しよう」
はあ、と、団員たちから溜息が漏れた。
ウボォーギンやノブナガ、フィンクスなどの強化系組は、「マジかよ、こいつら結構手応えありそうなのに!」と、心底悔しそうに地団駄を踏んでいる。
子供は、きょとんとしたような、やはりあまり頭の良くなさそうな顔でクロロを見ていた。
「とりひき?」
「約束の内容を決める事だ」
「約束? うん、いいよ。でも、やぶったら」
「“おしおき”だな?」
確認すると、子供は、うん、と頷いた。
「俺たちは、そこの」
クロロは、先程団員と相打ちになった、緋の目の男の首を目線で示した。
「“緋の目”を一対、そしてお前の能力の内容を全て明らかにする事──……いや、お前を連れて行くこと、それを条件に引き下がろう」
「あたし?」
子供は吃驚したのか、透明な目を見開いた。